2021.02.17 UP DATE
PAVEL 12'2" Glider Hull

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この板、1、2度は紹介したことがあります。製作は11年前、もうそんなに経ったのね。
ところがこの板をリッチに頼んだの、実は16、7年前です。

そんなわけでこの板については随分前に1度詳しく紹介しましたが、当サイトで昨年の終わり頃からヒマ見てビッグボードネタを書いていると割りと色々な方から問い合わせや話題があって、その流れでこの板に触れると以前の記事をご覧になっていないことも多いので(当たり前か)、ここで再度紹介してみることにしました。

しかも偶然リッチもこの板のことを思い出したらしく、つい先日急にメールでこの板の写真を(私が前にあげた写真だけど)を送ってきて盛り上がってた。
その時に彼は、この板をGlider Hullと呼ぼうじゃないの!、と。

いや、何ともベタだけど、リッチがわざわざそんなこと言うんだからと思ってよ〜く考えてみたら、この板こそGliderに相応しいよねって妙に納得しました。

この板を頼んだのは、忘れもしないカリフォルニアはエンシニータス、お気に入りのお寿司やさん桜花での事。
怪しい寿司屋の多いカリフォルニアだけど、ここにはホントに腕もアイデアもバラエティも素晴らしいマスター職人さんが取り仕切っていて、晩飯食おうぜ、って時にはマストな場所。
ちなみにここ、数年前にクローズしてしまいました。彼の地もしばらく前からの人口流入と土地バブルみたいなのに巻き込まれて、異常な家賃高騰にやられてしまった。
この小さな町はかれこれ40年近く前からカリフォルニアでのホームみたいな処、自分チでもないのに偉そうで申し訳ないけど、静かな町なのに波乗りと奥深いサーフボードの文化が宿るところがLA化するのはいかにも残念な気分。

話を戻して、この板をオーダーした時にリッチに言ったのは長さだけ、あとは全てお任せ。
もちろん、いつ出来るのかは最初から見通しも考えていません。
で、案の定、すっかり忘れていたある日、2010年の来日製作を控えてブランクスの準備のためにメールでリッチと打ち合わせをしていているとリッチさん、例のでかい板のブランクスを用意してあるからね、と。

お、さすが!
リッチさん、そういうとこあって、少なくとも私の知る限り言ったことはやる。何年も経っていて私が忘れていても、そういうことがよくあります。


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実はその頃、このサイズの板を作るためのウレタン・ブランクスはUSにはありません。現在も相当不自由なままですが。
リッチさん、どうしたかと言うと、唯一このサイズのブランクスのモールドを持っているAUS・バーフォードにフォームをオーダーしてそいつをUSに送る。
さらにそれをUS BLANKSに持ち込んで(こういう力技に応えてくれるのは、リッチだから、ということでしょう)リッチのシグネチャー・ストリンガーとスペシャルロッカーでグルーしてもらう。
みなさんからオーダーいただいた板のためのスペシャルブランクスと一緒に日本にやって来た、の流れ。

そうして始まった2010年の来日製作でのこの板、もちろんみなさんからのオーダーが優先ですからスケジュールの後半に組み込んだ。
当然リッチはこの板のデザインを描いているので、まず最初に私に言ったことは、できればフルテンプレートを作りたいんだよ、と。

通常、テンプレートはベニヤ板にカーブを描いてそれを切り出して作ります。
また、普通テンプレートはたくさんの種類が用意されている中から、いくつかを組み亜合わせて1本の板のアウトラインを生成するという手法で、決まったサイズのフルテンプレートを作るというケースはそれほど多くありません。
しかも、プランで12フィート以上ある板のフルテンプレートを作ることができるベニヤ板なんてどこにもありません。

それでどうしたか?
リッチの考えには根拠があった。友人のとある工場に出入りするうちに、その工場のとても高い仕切り壁に貼ってあるベニヤ板に目を付けてた。
まさかそれを剥がそうってんじゃねえだろうな?

それは無いとして、その工場の主人である友人に尋ねてみると、その壁を立てる時に特注したバカ長いベニヤ板が少しだけ残ってる、と言うんです。
まあ、確かに特注すれば手に入るとはいえ、すぐに出来るわけでも無し、都合よく残っていた板をしかも譲ってもらえた。安いものではないけど、最初からやればそんなもんじゃ済まないから、全くありがたい。


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そうしてフルテンプレート作りから始まったその様子は、この話の中の写真でご覧いただけます。
このテンプレートに限りませんが、リッチはテンプレート作りにもとても時間をかけます。
描くカーブの決定はもちろん、その微調整と切り出したテンプレートの切り口の仕上げが人並みではありません。

サーフボード界のカーブ魔術師の一人であるリッチ・パベル、この板の描いていたプランをこのテンプレートに実行します。
で、彼が私に語ったこの板の秘密のひとつ、"あのねCHAN、このテンプレートに描いたアウトラインのカーブはロッカーにも共有するのよ"、と。

どこから見てもこの板は一つのファミリーカーブで構成されているのです。
リッチさん、この長い板にはすごく有効なのよ、と。
しかもこの考え方、ちょいちょいやるよ、って。

この話、極意というか秘技というか、そういうレベルの話だと思うんだけど、内緒とは言ってなかったから読んでくださる皆さんに楽しんでいただいて。


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シェイプには数日かかりました。
リッチの削る板は、単に表・裏・横、ではありません。このカーブの共有コンセプトと同時に、レール・ボトム・デッキのクラウン、全てにフォイルが通されるのです。


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出来上がったシェイプはいかにもシンプル。と見えておいて、描いたデザインを表す各部の様子・景色が姿に削りされると、あらゆる部位に連続するわずかな変位を部位ごとにカタチとして見ることができます。
全てのカーブの大きな流れそのものが、凄い仕掛けの集合。
例えばノーズとテールのエンド部やテールのレールフォイルなどを除けば、でかい板ですからおよそあらゆるカーブが大きな弧の一部なわけです。


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ところでリッチさんがこの板をあえて" Glider Hull"と呼ぼう、というここで言うHullとはでィスプレイスメント・・ハルの意ではない。
実を言うとこの板には、前エリアの後半から後ろ足エリアに渡ってとても控えめなトラプレーンハルが仕込まれているので、そこを捉えればハルのニュアンスも持っています。

その上で、この板のHullとはそのまんま、滑走体であります。
まさにグライダーにふさわしいサイズの滑走体。

その名の雰囲気から、ただの直進構造を想像してはいけません。
このサイズがターンするための(ただの方向転換ではなくてね)、サーフィンだからこそのターン対話が分厚いのは、PAVELの看板。

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ちなみにこの板、グラスは佐藤英進にお願いしました。
英進もスタートtoフィニッシュのビルダーですが、リッチが弟子と認める彼に、この板を撫でまくる機会を持ってもらおうと思いました。きっとたくさんヒントがあるでしょう。
グラッシングはもう一つのシェイプです。

英進、いい仕事してくれました。きっとプレッシャーすごかったと思います。

そしてこの板、私のビッグボード体験の中でも全く別な、まさにGlidecr Hull。

リッチの仲間の一人にデレク・ハインド氏もいますが、みなさんデレクさんが時々見せるでかい板のサーフィンを見たことがあるでしょう。
長い長い板、それすらもフィンを着けずに強烈なSlide & Glideを見ることができます。

ほれ、あのクリアで、両レールに青と赤の書き殴りラインを書いた板。
長年の試行によって、最近ではフィンレスに供するだけでなく、あっちこっちを切ったり貼ったりしてチョップロッドみたいになってます。

あの板、あれ、PAVELです。

あのようなサーフィンは遥か彼方。
まあそれは仕方ないとして、私もこの12'2" Glider Hull、暖かくなったらまた持ち出すことにします。

エムズが私の地元で毎年やってるビーチイベント・フィッシュフライ、今年はきっとまだできないかもしれないけど、ともかく次回はこの板も持ち出して皆さんにも乗ってもらいましょう。

今日は、リッチ・パベル作る板のどれもが、こういった見たことも聞いたこともないようなイメージからデザインそしてシェイプまでの、プロセスの中や元にとんでもない立体的な発想とアイデアの積み上がりから生まれます、ってな話です。


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