2022.08.16 UP DATE
Did you wax it up?

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よく〇〇には2種類ある、なんて言うけど、つまりこれは色々ある中から2つの相対的な事柄や要素を取り出してみるってことですね。
なんだって2種類だけですむはずがない。
しかもその2つの要素は単に相対的なだけではなくて、要素が立体的に交差しているはずです。

毎日みなさんにサーフボードをお届けしている中で、店に来てくれたり電話をいただいたりメールで質問をされたりなど相談を加えてあれこれとお話しすることがホントに多くて、それは私にとっても楽しい充実のモーメントです。

ですからその日お相手したお客さんから聞いたり感じたりした話の中に、エッセンスがたくさんあります。


そんなサーフボードにまつわる多くの事柄や要素の中にもいろんなタイトルの2種類がある。

機能と感触、ウチではまずこれが肝心。何リッター?、の話は他所にお願いしておくとしてね。

この2種類、もしかして性能とフィーリングでもいいかな、というと?
性能でもいいんだけど、それだと馬力とかスピードみたいに数値化して表す感じがしてサーフボードについては昔からあんまり用いない表現。

あえて感触と言うのはつまり、フィーリングの範疇でも、より情緒的で感性を刺激する領域のことです。

この2種類の要素は相対的なんだけどハナからクロスしてるから、だからこそ多くのお客さんはその時に求めている板の話をしてくれる時に、2つをきっちり分けて説明しづらいのは当たり前。
そのサーファーの話の中から要素を理解して板を選ぶためにどの板をどうガイドするかは、それこそ私たちに求められます。
もちろんそれで何の問題もなくて、遠慮なくご相談くださいね。

サーフボードの機能性、まずはシンプルなところからでは浮力・パドルスピード・波のキャッチの良し悪しなどの基礎的な機能性ね。
もうちょい込み入ったところではドロップの積極性・レールの操作性・フィンの性格・アウトラインとロッカーとボトムデザインの性格などや、もっと言うとフォイルの性格なんかも。

では感触はと言うと、これはもう感触なんで、言葉に置き換えるのはうんと厄介。
滑らかさや鋭さ・ゆったり感ときびきび感・軽快感とどっしり感など、このあたりはまだシンプルだけど、さらに主役級の要素は言葉になりにくいあたりにある。

ちょっと面白いのは、機能性のところは波乗りの各パートをあえて縦割りするようにイメージすることが出来なくはない。
感触はと言うと、これはすでにもう動きそのもの、つまりフロー(流れ、ね)の中にある。

さて、みなさんから質問や相談をいただいたりした時に、この2つの要素はセットでお話ししています。
もちろん私たちがお届けするような板にすでにどっぷり使っているようなみなさんも少なくないので、そういうみなさんはさらにディープな話になるわけです。


機能と感触、その出来の良し悪しと質は別としてどんな板でも機能性の集合だけれど、どっぷり浸かれる感触を持った板となるとこれがそうはたくさんあるものでは無い。
感触の要素はその板にデザインされた機能性を司る要素の集合によって生み出されることには間違いありません。
で、それはその製作者が意図して生み出すとは限らないのだけれど、"すげえ!"ってなるのはやはりその感触が"デザイン"されている板とシェイパー。
例えばリッチ・パベルはその代表的な存在ですが、彼が時々板に書き込むサインと共にDsignerと記すのは、それはいつも小さな字なんだけどつまりそのこと。

ありがたいことには、私たちはそのような板に恵まれています。そのような板を預かり波乗りして、みなさんにお届けしています。
エムズが選ぶ板の基準です。

現時点でストックの有る無しは別として、今日はそういう板のいくつかを選び出してあらためて紹介しましょう。



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EISHIN Surfboards, TWIN CHIN
まずはこれの話、しましょう。ここんとこ私たちの間でもお客さんたちにも話題が続いています。

チャイン、というのは基本的に言えば"峰"の事。
今日紹介しているこの板のボトム写真を見れば、いくつかの峰を持っていることが分かりますね。この板で言うチャインの主役はアンダーレールに施された細いリーフ状にえぐられたコンケーブを持つパネルと、そのパネルがセンターパートとの間に作り出している峰。

サーフボードにおけるチャイン・デザイン、私の最初の体験は70年代の中盤あたりにサンディエゴで作られたシングルフィンが最初。
その後、ほとんど見かけることが無かったのですが、数年前にリッチ・パベルが飛躍的にアップデートしたチャインをEASY WIDERに採用してリリース、これはもう今も大人気のモデル。

リッチ・パベルに評価されて多くを学ぶ佐藤英進が、そのデザインを学び取っていくつかのモデルにフィットさせて展開しています。
その一つが、このツインチン。

ツインチンはぱっと見からは想像つかないくらい守備範囲の広い機能性の持ち主。
プラットフォームそのものは、意外と広いサイズレンジに展開可能なミッドレングス・ツインフィンということが言えます。

ポイントノーズから感じる印象よりも実は十分な幅を持つノーズエリア、やや絞り込まれたテールはピンテールではなくツインフィンに滑らかフィットのスモール・スワローテール。
もちろんフォイルはこのカタチとの調和にいかにも理に適ったデザインで、ロッカーには速いカーブをたくさん与えつつも長さを邪魔にさせないポジティブな動きのフレンドリーなもの。

ボトムの独創的なセンターパネルは、ノーズからスライトVEEが始まり、そのVEEはスラント量を変化させながら基本的にこのセンターパネルを縦断しています。
さらにそのVEEパネルはボードセンターを抜けるとコンケーブが、これもパートごとにフェイズを変化させながら与えられています。
これらの組み合わせは結果的にアンダーレールのチャインだけでなく、ボードセンターにも途切れないもう一つのチャインを持つことになっています。
これ、似たものとしてクルーザーやボートなどの船体の船底形状がありますが、そもそもそれらがハードチャインと呼ばれるように、実はチャインがサーフボードに持ち込まれた発想の元になっています。
船底に採用されるハードチャイン(またはチャイン)は滑走時の多大なリフトとスピードを得られ、なおかつターン時の操作性と回転性の高さを作り出します。

同じようにツインチンでは波乗りの最初のコマであるテイクオフ時の、ドロップの積極性の高さと早さ・速さに表れます。
これ実はエッジボードがよくテイクオフが早いと言われることと共通していて、ツインチンのマルチなチャインがリーディングエッジ(プレーニングエッジ)としてボード前部が主導する滑り出しを作り出す働きです。
エッジボードでもテイクオフ時の早さを作るのは、このボード前部のエッジが同じ働きをすることによります。
ついでにこの機能性要素は例えば波のスローなセクションでの推進性の高さにも効きますよ。


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ここまでツインチンの機能性要素を話しましたが、ここからがこの板が持つ個性的な感触の話。
アンダーレールのチャインとパネルのコンケーブは、サーファーがターン操作を始めると同時にターンの回転弧の先(奥)に向かって積極的に、それは板が回転して向かう先への物理抵抗が2段階ほど減った感じ。
これ、感じと言ったけれど実は感じではなくて実際の作用です。

アンダーレールのチャインとそのコンケーブはこのパートが半ば独立して強いリフトを作ること、そのエリアを囲むチャインのエッジでもある外形ラインそのものが回転方向に切れ上がるカーブを持っていることによる作用です。

この話も機能を説明しているのですが、この機能がツインチンの、まずは上へのポジティブなターンのとてもユニークな感触に直結しています。
これは例えば豊かな感触を持つディスプレイスメント・ハルが持つ、不思議な無重力リフト感と速さにも似てもいるのですが感触は違っていて、ハルのその感触がナイフがバターに吸い込まれるようなものとすれば、チャインのそれは落とし穴に落ちるのを逆さまにしたような、まるでいきなり加速度が増した動き。
いつもの操作で15%(大雑把だけど)ばかり大きく速く上に上がると言えばいいでしょうか。

この不思議な感触はサーファーの意図に対して違和感のあるものではなくて、最初から笑っちゃうような、あれっ?っと感じながら乗り手はニヤけるとても捉えやすいもの。

逆のレール、つまり例えばカットバックは、と言うと。
同じバックサイドへのターンでも、例えば割りとユルイ波のトップや斜面で板を裏手に回すピボットなターンではテールに乗ってフィンを軸に回すような操作があります。
ところがカットバックではスピードを保ったままショルダーあるいはその手前で、前足のかかと側のレールのホールドとプッシュをコントロールしながら、後ろ足はテールをもっと面で踏み込む的な、複雑な体勢と連続する操作がサーファーには求められます。
波乗りの動きの中では他の操作と比べてその操作時間は長い(実際には短い時間でも波乗りのスイスイ素早い操作の連続の中でね)ことで、カットバックはいつも課題です。

ツインチンでのカットバックはその課題を無かったことにしてくれるのではない。そんな板はありませんね。
一方、この板でそれがうまく行った時の感触はと言うと、これはもう感激です。

カットバックの特にその操作の流れの前半では、板のアンダーレールの主要パートはまさにチャインのエリア。
そもそもカットバックの操作の流れがうまくいったならば、そのターンのピークでの回転スピードを先ほどと同じように15%ばかり(たぶんそのくらいっていう感じ)加えて、さらにそこが軽くなる。
これは唯一無二と言ってもいいです。

そしてこれらもろもろの機能とそれが生む感触、ツインフィンとの調和は必然。絞ったテールは速いミッドレングスのスピードのある連続動作を助けて、さらにスモールスワローテールはトランジションをなめらかにする。
そういったいくつものデザイン要素が手をつなぎ合うことで、この板の感触を個性的で、かつまとまりのあるものにしています。



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PAVEL , DYNAMIC DUO / Ripping Egg
板のサーフデザインのあれこれはあれど、トップムーブやターンのキャラクターはある意味そのデザインによってその指向性は選択されるところがあるものです。

リッピング、これはもうクラシックなワードになりつつあるようでいて、なんてフレッシュでしょうか。
それほど技指向ではないナチュラルなカーブは別として、リッピングそのものはマニューバー(技)ですからそのバリエーションは多岐に渡るだけでなく、ただしどんな板であろうとそれはサーファーの腕前をもって繰り出される。

ちなみにPAVELにはデュアルと呼ばれるこのフィンセットアップのコンセプトを持つモデルにはもうひとつ、ダブルハピネスがあります。
ここで取り上げたダイナミック・デュオを特にまたの名をリッピング・エッグと名づけたのには、リッチ・パベルのサーフデザインに対する創造性の高さと明快な創意があります。


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さてこのデュアルとも呼ぶダブルフィン・セットアップは、シンプルに2本のシングルフィンと説明できます。
2本なのになんでシングル?、というのが誰でも持つ疑問。
まるで禅問答みたいだけど、例えば1本が2本に見えた幻惑みたいな、サーフデザインの手品みたいなものを想像してみてください。
つまりサーフデザインの基本はシングルフィンなんだけど、同じものを2本に分割したことでポジティブな動きとマニューバビリティの向上と容易さを与える。
リッチさんのデュアルのデザイン・シェイプではここで大事な要素として、一つのフィンが二つになっても、ドラッグとフィン間の水の抱き込みの重さを生じさせずに。

ここですでにデュアルの個性的な感触を想像できます。だってシングルフィンの優位性を壊さないで、なのにシングルじゃない動きなんですから。
これ、リッチさんの場合は例えばシングルフィンの欠点(私、そんなのあるとは思わないけど)とか限界を広げる的な改善系のアイデアではなくて、それこそこのテーマで扱っている感触・サーフデザインの創造と展開であろう、と。なにせリッチさんですからね。

足りないものを補う、あるいは改善する的チャレンジなのではなくて、シングルフィンそれそのものが良いものであることを出発点に、独創的な機能性を加えることでそれ自体がそれまでにない感触を生み出そうというアイデアです。

実際この板の特徴的な感触部分、他に似たものが無い。
デュアル・シングルフィンですから、なんというか普通に乗ればとても良いシングルフィンとそれほど大きく違う感じはしません。


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ではまず試しに意識して深めにボトムに降りてみましょう。さらにボトムではこれも意識して板を深めに寝せてみましょう。さらにはそのボトムターンを意識して板を深く踏み込んでみましょう。

そうするとどうでしょう、ボトムで板は思うよりももっと深い位置をしかも深めに寝ながら、シングルフィン気分で上半身を先に抜いてリフトすると板は自分の腰を追い抜く速さでさらに高いトップに向かいます。
そこでビビらずに(何せ波は大きくなくて良いんですから)高い位置を回ろうとする板を腰下に引き込んでやると上でもドライブして、そのまま強い勢いを持って板は下に向かいます。

この例はいつもの大きくもない普通の波での上下の振幅の大きなUPs & DOWNsとも言えますが、気分(感触)はむしろ大きくて速いボトムターンとトップターンの組み合わせ。

ここで一つ報告できるのは、このタイプの動きもシングルフィンでレールとフィンをうまくセットに扱えた時の感じであるにも関わらず、シングルフィン以上の上下幅と速さとドライブを伴うというところです。

つまりこの板、穏やかに操作すれば(大人しく乗れば)高品位のシングルフィンで、少しでもラインを大きく、そしてより踏み込んでやれば大きくそして深回りするとてもダイナミックなサーフィン。
その上昇力の大きさはサーファーがリッピング・マニューバーを繰り出すのを強く後押しします。
なるほど、そこがリッピング・エッグのイメージなのね、と。



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Displacement Hull
これはもう、そもそも感触のサーフィン。このサーフデザインの起源は偶然の発見といった要素がありつつも、それを発見・確信してから先はもう、一途にその感触世界拡張の歴史とも言えます。

どんなサーフボードでもそれが大いに感触をデザインしても、それはデザイン上の機能性の結果なのですが、このコンセプトに限っては少なくとも作者がデザインに対して純度を持ち合わせていればいるほど、目指す感触デザインに機能デザインが従うという順番なんじゃないか、と私は信じています。

例えばここで紹介しているファンタスティック・アシッドの板たちは最近入荷した板たちの中の一部ですが、これだけの中でもその顔つきだけでもこんなにいろいろです。

ディスプレイスメント・ハル(ここからは単にハルとしますね)の代表的デザインには明確な基本的骨格構造があります。
それは堅苦しい決まり事ではなくて、ハルの感触純度を保つあるいは高めるためにはそのフォーミュラは常に出発点だからです。
そのフォーミュラもパートについては変化を与えてハル感触の拡張方向のデザイン展開がされることもあります。
もちろんそれらの要素をどのように解釈したり整えるかは、作者の人柄や指向によって色々な展開があります。

エムズのサイトでは以前にも何度もそれらのデザインの説明を書いていて、またいくつかのサーフィン誌でも詳しく書いたものがありますので、今日はそのデザイン解説はそちらを探していただくとして、ハルはその波乗り感触こそが主題ということを紹介しておこうと思います。

エムズのお客さんたちはもちろんこのサイトを見てくださるサーファーには、ハルヘッズから関心を持っている人まで幅広くたくさんいると思います。

もうね、このハル宇宙に魅せられることになったらね、身も心も任せるに限ります。
ほれ、でかい波に巻かれたらジタバタしないでリラックスすると良いじゃないですか。



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OLA DE ORO SIM, SIMMONS
ジョー・ボーゲスがオリジンを研究し尽くして再解釈して生み出した現代シモンズ。ジョーさん亡き後は現在、ジョーさんのオリジナルデザインを学んでさらにトレーニングを積んだ佐藤英進がエムズ監修の元でそのデザイン引き継いで、Ola de Oro Sim / 通称OLA SIM・オラシムとしてお届けしています。

このシモンズ、ジョーさんがオリジナルを生み出して以来、そのような感じの形とボリュームを与えてシモンズを名乗るボードが続々と現れています。
ところが実はジョーさんの革命的デザインであるシモンズは、フォロワーたちの着目した特徴を真似るだけではまったく不十分で、ロッカーレイアウトとセットになるボトム構成とそれに調和しなくてはいけないフォイルなどが最大の心臓部です。
もちろん一般的に意識される特徴的なアウトライン骨格と、基本的に十分なボリュームはその心臓部と調和する無くてはならないデザイン・キャラクターです。
ちなみに大きめなボリュームに体験的に慣れていないサーファーの中にはこのボリュームに驚くケースもありますが、シモンズには上で紹介したように無くてはならない調和であること、サーフィンすればこのボリュームが全く邪魔にならないというのは重要なポイントです。


それはもちろんこの板の持つ感触にサーファーが従い、さらにはその機能性をちゃんと発揮させる開放的なメンタリティはこの板を楽しむ上でとても良いサポートになります。

さてこのシモンズは、実は"科学の産物"とでも言いたくなるほど理屈の通った、ある意味アカデミックな力学理論に導き出されたデザイン・シェイプです。
ジョーさんはボブ・シモンズの仲間であったジョン・エルウェルさんからオリジナルシモンズのレストアを依頼され作業するという難しくて複雑な過程で、ボブ・シモンズ自身がこのオリジナルデザインを生み出すにあたって基礎とした理論を学んだ本、NAVAL ARCHITECTURE OF PLANING HULLSを知ることになります。
つまりこれは大戦当時アメリカ海軍の依頼によって有能な科学者・専門家リンゼイ・ロードの研究で著された船体構造学・流体力学の本。(この本のタイトルにある、PLANING HULLとはそのまま船体・船底と考えてくださいね)


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この構造・科学の中からサーフボードのボトムに超進歩的なデザイン構成とその構成比率などにも踏み込んだデザインへと到達したボブ・シモンズは、ついに亡くなる少し前に完成形シモンズに至ったのです。
ジョー・ボーゲスはその完成形オリジナル・シモンズのレストアの過程で理論と事実(シモンズボードそのもの)から、そのオリジナルデザインの道程をたどり、彼の現代シモンズへとアップデートしたのです。

先に書いたようにこのデザインは真っ向から科学的アプローチによって成されました。
その結果、ジョーのシモンズがサーファーたちより先に製作者たちに驚きを与えたのは、サーフボードとしての基礎機能を飛躍的に高めたデザインであること。

つまり、パドルスピード・高速性・段違いな波のキャッチの良さ・操作の軽さ、といった基礎的なサーフボードの機能とマニューバー性の高さ。

これほど段違いな機能性の高さを持っていると、それはそのまま独自の感触も持つに至ったわけです。
"キン斗雲"、私がこの板を体験して真っ先に頭に浮かんだのがこの言葉。
で、それをみなさんにも言っちゃったものだからある時期広まっちゃいました、"キン斗雲みたいな板!"、って。

実在しない"キン斗雲みたい"なんて言って、それを"そうなんだ"なんて納得してくれるサーファーたちも面白いんだが、あの漫画で悟空があやつるそれは思っただけで好きな方に飛んでいく。

まるでそんな感じみたいに、ちょっとした操作でもえらい速さでターンするシモンズはしかも、ピタッと落ち着かせるのも簡単。
もうそれだけどサーファーにとっては未知の感触に違いありません。

ちなみにこのように説明できる感触はミニシモンズからミッドシモンズあたりまでに言えます。
じゃロングシモンズは?、となります。
ロングボードサイズになると、例えばどんなに軽い仕立てで製作するとしてもやはり長いものは長いですからミニやミッドのようなワープ感の動きにはなりません。
その代わり、長いものが持つ強力な滑走性、これが絶大に加えられるのです。シモンズの特長である基礎機能の絶大な高さは滑走性の速さ・勢いに集約されます。
この部分、普通は長さに長さを加えることがそれを得る方法。
ところがシモンズでは、例えば9'6"が軽く2回り長い板の滑走力を持つ。さらに当然ながら操作性は軽い。

早い話、9'0"は10'0"並みか、あるいは超える、と。

このように"リアル"なシモンズでは、デザイン科学の中のある違う方法を選び出して整えたデザインが到達したサーフボードの機能性の高さが、そいつで波乗りしてみると比較するものがないことによってそれ自体が唯一無二の感触になったという、これも珍しい話。



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PAVEL FISH
その昔、とは言ってもせいぜい15年くらい前の話だけど、私はリッチ・パベルに"FISHを端的に説明すればどうなる?"、と訊いた。
彼の答えは、"最も機能的なサーフボード・デザイン"、ときた。

PAVELボードをオーダーいただいているみなさんには、彼の入国をお待ちいただいていて私もそれを首長くして待っている一人ですが、もちろんFISHのオーダーは多い。
一方でPAVELボードを数多く体験しているみなさんはFISHだけでなく、それはもう無限なんじゃないかと思えるくらい色々なデザイン・シェイプのPAVELボードたちがそれぞれのみなさんとって別次元の体験をさせてくれることもご存じだ。

そのリッチが最も機能的と言うのがFISH、その理由を説明しなくちゃね。
ここから先は、いや実はここまでもなんですが話題の対象は私がよくお伝えするよく出来た板、つまり本当にいい板、の話です。

最も機能的、さてここに付け加えなくてはいけないワードがあって、それはもちろん後段で私自身が求めた話の中にありました。

彼が言うそれにはつまり、"最もシンプルで"、が加わる。
それならシングルフィンこそそうではないの?、という疑問もありますね。

おそらく、サーフボードデザインには、一番良い、は無い。良いものがいくつもあるだけなはずです。ところがその"良い"には、ステージの違いが厳然とある。

機能的なデザインは比較級無しに横に並ぶけれど、最もシンプルで、と言うことになると波に登場してもらうことになるのです。

例えば、一般的に見れば船はシングルフィンみたいなもんだ、とも言えます。理にかなってます。

ところが船は波に乗らない(乗る人もいるけど)。船にとっては相手である水面は基本的に水平基準(凸凹やうねりがあっても)である。
ところがサーフボードは最初っから相手が波、つまり風のエネルギーが水に伝わり回転運動化してうねりとして移動した末に浅い地形によってサーフブレイクとなるわけだから、波はつまり水を通して形状変化するスパイラルな運動エネルギーそのもの。

それにサーファーが乗るための媒体がサーフボードなんであるね。
個人的にだけど、だからサーフボードを乗り物とは言わない。

で、これが波に乗って(押されて)岸に向かってそれこそ真っ直ぐに滑るだけならともかく、波乗りは基本どっちかの横向きである。
サーフボード的には波乗りのほとんどの瞬間、サーフボードはその形状の左右どちらかが作用している。
それが切り替わることをレールtoレールと言い、その入れ替わりの繋ぎのモーションをトランジションと言いますね。

さて、リッチがFISHを説明するときにこれもよく言う、デュアル・シングルフィン。
おやあ、さっきのデュオの時もそう言ったじゃん?、となるけれど、勘違いしてはいけません。さっきのは2本見えているだけなのだ(目の錯覚だよ)という、さすがにどっかの壺売には真似もできない手品。

つまり2本のシングルフィンは当然対象フォイル(のキールフィンが基本)、そして代表的なテールデザインとしてのフィッシュテールは2つのポイントテールと解釈する。
波に対して最もシンプルに機能的に作用する波側のフィンと、それに連なる明快なホールド点でありリリース点であるテールエンドのポイント。

ところで、波乗りはターンをする。
逆側に走ったり、あるいはカットバックでは逆側にもうひとつ同じものが要る。
その繋ぎの動作に最も機能的なテールエンドのポイントを結ぶカーブを持った、フィッシュテール。

どうでしょう、これ以上無いくらいシンプルで機能的な姿。

最近は色々なところで紹介されることもある、フィッシュテールの起源。ニーライダーであるスティーブ・リズがニーライド時に使うフィン(これは足ヒレのこと)の形に合わせてテールを切り出した、と言うのは本当の話です。
一方でそのリズ・フィッシュが地元で発達する過程で、そのテールのインサイドカーブそのものがターンとトランジションの両方において重要な役割を持っているデザインされなきゃいけないパートであることの発見。
リッチが私に教えてくれたことの一つだけれど、あのインサイドカーブ、ラインはもちろんだけど、入れても抜いてもあそこはレールだからね、と。漫然とフォイルされてはいけない。


現代サーフボードは50年台半ばにデイル・ベルジーの生んだPIGによってモダン・サーフボードの歴史が幕を開け、60年代半ばからのノーズライド・ブームを経てショートボード・レボリューションによって一旦はロングボードそのものがほとんど消え去る時代に至る。
それはハイパフォーマンス・サーフィンの始まりで、アグレッシブなターンとリッピング・マニューバーの発展に突き進んだわけです。

ロングボードはその過程でおよそ15年ほどの間ほとんど姿を消した(もちろん、数少ないけれど愛好家はいましたよ)けれど、カリフォルニアでは80年台半ばには"楽しいから"というごく自然な形で復興の動きが始まりました。
その後現在に至るまでロングボードはノーズライド・マニューバーとセットで時を刻んできたわけだけれど、ごく最近になってノーズライド・デザインから解放されたデザイン・シェイプが求められる傾向が現れ始めました。

そのひとつがフィッシュ・ロングボードです。
それらをグライダーというカテゴライズをするのはイケてない。イケてないっていうのもイケてないのだが、仕方ない。イケてないんだもの。
グライダーの前にサーフボードですから。フィッシュの機能性は長いサイズでもグライダーの前にフィッシュである。

ところでFISH、高い機能性は分かったとして、さて感触は?

フフフ、それは最もサーフィン的デザインであるが故の、最もナチュラルなサーフィン感です。

サーファーがボードの上に立ち上がっていくつかのターンと、さらにサーファーによってはいくつかのマニューバーを繰り出す。
最もエフェクト無しのサーフデザインがFISH。それだけに原理的に優れたデザイン・シェイプこそが本物と知られます。
デザインの種類に階級はないけれど、リッチは本当のFISHにはフォーミュラがあるということを言います。
そして加速フォイルのフォーミュラについても。


先日あるPAVELファンのサーファーがショップにいらしたときにね、"あ、そういえばこないだ知り合いにキールハーラー借りて乗ってみたんです。もう一発で分かりました、びっくりしました、これか!、って"、という話を聞かせてくれました。
彼はPAVELフリークだけれど、そういやPAVEL FISHは持っていなかったんです。
それまでもフィッシュには乗ったことがあっても、PAVEL FISHは初めて。

そういうことなんですよ。

さっきジョー・ボーゲスが作り出したシモンズの話をしました。そこではそのデザインが機能性の基本を塗り替えたことによって、そのものが感触に到達したという話をしました。

本物のFISH、機能性のシンプルな要素を見つけ出し、最上のシェイプで削り出す。
だからこそ、FISHを知ったサーファーはPAVELと言うのね。

サーフボードシェイプは、私たちの想像をずっと超える宇宙的で広大な仕業。
であるからこそ、ある程度の合格点に達したシェイパーはその合格デザインやシェイプ・アプローチの範囲をキープすることは自明で、造形の上で自らそれぞれデザイン上のルーティンを変えるということは至難なのです。
ところがデザインの創造はさらにその先にあるのです。
それはデザイン・シェイプのダイナミクスと度胸、これは意識というよりも人格であり魂です。

さて、FISHはだからこそそんなに出来が悪くなければ、まあまあならまあまあ、ほどほどなら程々、普通に調子いいならそれなりに、という板は結構あるよというところまではどうやらシーンはやってきました。
うんと深く求めようと、そうではなくても、FISHの付随的なご利益は広く色々なサーフボードデザインに届いてきました。

ですから、そんな今だから提案。
言い訳のない、むき身で本物のFISHを体験しませんか。




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もうひとつ、最近私が刺激されたFISH。
beige, KEEL FISHです。

私ね、シェイプにいかにもアイキャッチなところを盛り込んだデザイン、どうしても喜べないです。もうこれ、個人的な根性なもんですが。

ベージュの作者は若いデザイナー・シェイパー、ジャック・デル・レニー。
色々なところで紹介しているように、彼はとても若くて素晴らしい情熱を持ってサーフボードをデザインからグラスまで一人でこなす、それもいちじるしい進歩のスピードでそのクオリティを上げています。

彼も、"デザインする"シェイパーで、ここで取り上げたKEEL FISHは、このようにデザインされシェイプされているのにはちゃんとワケがある、という板。
もちろんStart to Finishで、その板の全てを彼の手でデザインするのですから、選ぶグラスプロセスとマテリアルのウェイトと組み合わまでデザインしています。

このモデルのそこんとこの詳しい話は当サイトのトピックスで割りと最近書いたばかりなので、興味のある人はそちらを探して読んでいただければありがたいです。

ぱっと見に変わりばえがするとかしないとか、そんなことじゃなくて、FISH、シンプルで原理的であるからこそ本当に良い整い方でない限り味わうことができない瞬間があり、一方でそのサーフデザインに展開を与えるなら(ひらめいたなら)ポーズや浅はかな真似じゃダメ、と。
本当の自分を見せてね、と。

だってさ、スタイルはポーズのことじゃないですものね。

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