SURFBOARDS TEMPLE BALL, by the hands of Joel Roux, Maxime Badets and Tristan Mausse
ビアリッツのローカル・レジェンド、ジョエル・ルークさんを中心にトリスタン・モースと彼が率いるグラスショップ、アトランティック・バイブレーションにも参加するマックス・バデッツの3人が製作するリミテッド・プロジェクトがテンプルボール。
カスタムオーダーご希望の方にはエムズがお届けします。
当サイトでは以前にも何度か紹介しているのですが、簡単にその成り立ちをお伝えしましょう。
ジョエルさんはビアリッツのサーフボードビルダー最年長世代の一人で、60年代終わりにハワイに移り70年代には一世を風靡したジェリー・ロペス氏が率いる"ライトニング・ボルト"を支える優秀なハウスシェイパーとして活躍しました。
後年、地元ビアリッツに戻りアンダーグラウンドなサーフボード作りを続けて現在に至ります。
トリスタン・モースとも長く交流があり、彼がフルサイズのグラスショップ(巻き屋さん)・アトランティック・バイブレーション (ATVと呼びますか)をスタートするとジョエルさんは彼らの飛び抜けたクオリティと居心地の良さに惹かれてここを製作の場とするように。
ジョエルさんは彼自身が深く傾倒しデザインの柱としている70年代のシングルフィン・デザインを発展させながら、それに呼応し求めるローカルサーファーにそのデザイン・シェイプを提供していますが、トリスタンとマックスのアイデアと手を加えたコラボレーション・プロジェクトを始めることにしました。
ジョエルさんは70's シングルフィンの真髄を、自身のブランドを展開するマックスは同じく同時代のデザインの発展形を、トリスタンはそれら全般のオーガナイズやデザイン、グラスワークのサポートを、というのがおおよその陣形です。
さて今日は私がパーソナルボードとしてオーダーした日本上陸1本目でもある、8'0" FUGU 1 をネタにしてこのプロジェクト/ブランドの有り様を紹介しましょうね。
ここで見ていただく写真たちは、すでに当サイトのどこかでお見せしたものが含まれます。これらは現地を出る前にトリスタンが撮って送ってくれたものばかり、いい感じなので。
このようなブランドや板はたくさんの人が関心を持つカテゴリーではないけど、大きく言えばロングボードの時代と現代のショートボードからオルタナティブなどの時代を結ぶ、サーフィン全体の奥義を内包するファクターの入れ物。
単にレトロスペクティブな製品アイデアみたいなアプローチだと恐ろしくダサいことになっちゃうわけで、ジョエルさんのような生き方をかけて手をかけ続けるビルダーと時代を超えて学び掘り下げるトリスタンとの結びつきが生み出すと、考え得る最高のそれ。
お安い板でもないし、流行らせる仕掛けに乗せる板でもありませんから、ある程度ファッションを枯らしてからでしょうか。
それでも、私の世代は昔こういう板で身についた基本的なメモリーは、よく考えりゃ今でも最も肝心なサーフィンの柱。
未体験世代のサーファーにだって、味のない板よりも身体に染みる教えがあります。
まずはこのプロジェクトのタイトル、テンプルボール。
その意、知ってる人はさすがということになりますが、ネパールから。このラミネート(ロゴ)のデザインも全く秀逸で、ネパールといえばお釈迦様の生誕地ということでそちらの雰囲気もプンプン漂わせています。
もうここからリアルな70'sの予感です。
私のオーダーはシンプル。
8'0"、幅は狭くなく広すぎず、基本的に厚さはほっといても大丈夫で、デザインの一部。
リクエストは、できたらワイドポイントを少し下げ目に、テールはピンじゃなくてミニ・ラウンド。
色はトリスタンにオール任せ。
以上。
で、まずカタチをよ〜く見てみてください。
上でも言ったようにこのような板の典型的な様子に比べると、ワイドポイントは少し下げてあります。"型"を壊さないようにですね。
ボードのテール寄り1/3あたりのアウトライン、ストレートな(ホントにストレートなわけじゃないよ、大きなカーブが真っ直ぐっぽく見せる)ラインでテールエリアを絞り込みミニ・ラウンドへ。
このバランスがゾクゾクするんだ。
上2/3にはカーブがあって、下1/3はストレート気味なラインでキュッと絞る。なんと言いますか、古い画から出てきたような、スケッチのような。
テールのミニ・ラウンドはこんなに小さくても普段の波で意外と効く、私的には。
今度はノーズ、ビークじゃ無いってところがワルいなあ。
ここは何でもかんでもビークだイーグルだってなりがちだし、私も好きだけど、単に後付けパーツみたいなリクエストは控えるべきところ。
ジョエルさんのベーシックでもあるライトニングボルトには、フォイルの到着地としてのこのノーズが見られます。
フィンも同様!
華やかな形ではない。やはり同時代のデザイン・テンプレートの骨格を磨いたものです、当然。
このコンセプトはジェリーさんのライトニング・ボルトはもちろん、同じ時代のブルーワーさんがその源流。
最近はジェリーさんの名前が妙なソフトボードでばかり聞かれるのは複雑な気分ですが、神とも称されたジェリーさんのボルト時代は全盛期です。
写真の中には、テンプルボールの他の数本に見られるフィンたち、違う2種類のテンプレートが見えますがフィンデザインはやはり繊細です。
FUGU 1のフィンに選ばれたカラーはわずかに赤みを含んだブラウン・ティントで、これはもうボトムとデッキのインセットにも見事な仕立てという他はありません。
ボトムの巻き色はちょっと汚れたクリームというか、サンドベージュの手前というか、ピグメント。
以前は複雑なニュアンスのあるカラーの顔料が多くありましたが、現代はさまざまな環境規制などで使える顔料に添加する原料の自由度が限られるようになり、従って現在は雰囲気のあるカラーレジンをミックスするにはセンスと追い込みが要る。
私たちの山王ファクトリーでも私がエムズの板の色作りに張り付いて立ち合うのもそのためで、"大体そんな感じ"なんてことをしてはコロんでしまうからです。全然、違っちゃう。
このFUGU 1のこの色も、チョイス自体がまあ地味に見せかけておいて、後からじわじわと効いてくる系。
そしてデッキのインセットには、私たちもよく選ぶゴールドイエロー・ティントなんですが、ここでもフランスが出る。
ちょっと重みがある渋味を含む。
少し太めに引かれたレジンピンにも技が隠れていて、ピンラインの外側にわずかに赤みが染み出しています。
これ、トリスタンとも話したんだけど、この重めの赤の元になっている顔料はレジンに泣いてしまうので色違いを巻く時には追加プロセスが必要になります。
そのレジンに泣いてしまう性質を利用して、グロスレジンコートしています。しかもピンの外側、ボトムカラーの側(外側)だけに泣き色を染み出させるという、小技の割りには手間は結構余計に要るアイデアです。
こんなディテール、特に私みたいな視力の悪い者なら3mも離れれば分からない手なんだけど、以前は制作の現場のそれぞれのビルダーたちは大技だけでなく、たくさんの小技や工夫や手間をサーフボードに込めていたのです。
今日のこの話、ビジュアルな要素から話を始めましたが、最初に書いたようにこのプロジェクト/ブランドのリアルな景色をまずはお伝えしました。
いよいよシェイプ、についてです。
すでに前半で紹介したいくつかにはすでにシェイプが含まれています。アウトラインもそう。
レールフォイルを写真で伝えるのが難しいのは、形状はなんとなく見えても、我々サーファーはレールはボリュームとセットで了解するのですね。
このFUGU 1、男のレールです。ビビる必要はありません、この板のターンをすれば良し。
ロッカーの雰囲気が分かる写真を見てください。
あえてデッキロッカーで見ていただきますが、これで見るほど平らっぽくはないけれど、全体的にリラックスしたロッカーで、ボトムはフラット系からスライトVEEへとつながる、それも滑らかな面カーブを仕込んであって最初に話したアウトラインから始まり全部のパートが板全体のサーフデザインと見事に辻褄が合っています。
デッキはシャドウから見えるようなどフラットではなく、程よいカーブでパドルも足の置き場や足裏にもナチュラル。
乗り手が乗り手で波が波ならコアな波乗りに応える板そのものでありつつ、一方私たちの日常の波で幅広く"このデザインの"サーフィンを楽しめる。
それがこの、FUGU 1のコンセプト。
ちなみにFUGU 1、なんでこの名前が選ばれたのかはあえて聞いていません。
シュッとした細身が基本のこのような板に、アウトラインのリクエストと幅のセッテイングが合わさって真ん中ら辺が少し膨らんだから、だからフグかい?なんて考えてみたけど、トリスタン曰く"ジョエルさん、変わってて面白い人"ってことなのでそのうち訊いてみましょう。
この板、まだたった1度だけ海に入れただけ。それもひどいガチャガチャ波で。
新しい板、いい波で下ろそうと我慢しておいて、なかなかチャンスがないもんだから波悪くてもとりあえずパドルするかという、あのダメなパターン。
それがまた、いくらなんでもこの波かい?、ってほどのひどい波。それっきり。その後しばらく経つのですが、まだラックに入ったまま待機中。
でもね、そういうのに限って2度目は結構良かったりするんです。
ですから密かに期待してます。
そしたら今度はリポートで。