まず最初に紹介するこの板、VELZY Limited
すでに販売はされていませんが何と言ってもそのままリミテッドというモデル名、デイル・ベルジーが生み出した数多くのモデルのほとんどには、ちょっとひねった名前が与えられる中で珍しいストレートな銘。
それもそのはず、この板、VELZYが究極の限定ボードにふさわしいデザインとして編み出した10フッター。
デザインの基礎になるのは、デイル・ベルジーの代表作であるPIG。
PIGはバルサ時代の1950年代半ばにリリースされて以降、ボード・マテリアルがフォームに移り変わる60年前後をはさんで60年代半ばまで、シーンすべてのボードデザインの基本となった、近代で最も大きな革命的デザインです。
ちなみにロングボードにおける現在のスタンダードであるノーズライダー系デザインのオリジナル時代は、60年代半ばからトランジション時代に突入する60年代終わりまでの、実は5年足らずの期間でした。
そしてまた現在、ロングボードはログと呼ばれるようになって、PIGをデザインモチーフとする指向に変化しています。
ログ、もともと生誕地であるカリフォルニアでは昔はよく使われた呼び名で、ちなみにオーストラリアではマルなんて呼ばれていました。
オーストラリア独特の、そのマルってのはマリブの変称でしてノーズライダーの聖地マリブを象徴して、頭の大きいロングボードのことを指してAUSではつい10年くらい前までは聞かれた呼び名。
最近ではそのAUSでもログと呼ぶのが今、って感じで、マルっていうのが多分ファンボードというフレーズと同じくらい、ちょっと恥ずかしい感じなっているような、いないような。
まあその辺のツッコミはまた別の機会にしないと、脱線は戻れないくらい遠くに行っちゃう。
そもそもPIGというモデル名を思いついたデイルさんの洒落っ気は物事すべてに表れるのですが、PIGを生み出した当時の、それまでのボードデザインの前後をひっくり返したような形、それがお尻の大きいPIGというイメージにつながったわけです。
冗談抜きで、これもデイルさんから直接聞かされた話だけど、最初のPIGを当時デイルさんがいくつも持っていたグラスショップ(巻き屋さん)に持ち込んだら、その板にマークされているフィンポジションを見た職人がノーズにマークが書いてあるとデイルさんに訊いてきたという、嘘のようなホントの話。
つまりそのくらいPIGは革新的なデザインだったわけで、PIGのターン性能はサーフボード業界に伝わる"ベルジーがターンを可能にした"という伝説を生んだ。
デイル・ベルジーは50〜60年代にサーフボード・デザインに数えきれないくらいの影響を与え、現在レジェンドと呼ばれる多くのビッグネームたちもデイルさんの元でサーフボードを学びました。
そのような、デイルさんの元で働いた人たちや弟子の中に今はなきドナルド・タカヤマさんもいますが、タカヤマさんがあるインタビューで話したように、"PIGは現在のすべてのサーフボードの基本だし、ベルジーのBUMPがなければアル・メリックのBUMPスカッシュも無かったんだ"、と。
とまあ、そのくらいPIGはサーフボードの本質的なデザイン骨格として現在あらためてあらゆる世代のシェイパーたちに学ばれているということです。
私、かれこれ20年ほど前から、"ロングボード・シーンのPIG再指向"を提唱してきたんですが、今それが起きていることは素直に嬉しいです。
私も末席ながらデイル・ベルジーの子分であり、ベルジー一家の者、有り体に言えばライフワークでもあります。
つまらん自慢話じゃなくてね。
そしてPIGはログばかりでなく、現在多くのサーファーにファンを増やしているミッドレングス・デザインにおいても存在を確立しつつあります。
トランジション時代のウエイン・リンチを象徴するPIGに刺激されて始まったこの指向は、アウトラインが導くサーフスタイルのベースを提供しつつ、様々なレールデザインやボトムデザインとのコンビネーションに発展していますね。
ちなみにまたここで少し脱線します。
エムズの筆頭シェイパーであるリッチ・パベルは世界をリードするデザイナー・シェイパーですが、VELZYのスペシャル・シェイパーでもあります。
で、あまり紹介したことのないストーリーですが、リッチにとってデイル・ベルジーはデザインやシェイプのいろいろを学んだ師匠の一人でもあります。
というのもやはり今はなきテリー・マーチンさんはリッチの叔父さんの一人で、リッチは若い頃にテリーさんからも多くを学びました。
そのテリーさんは、デイル・ベルジーと同じ時代を共有したホビー・アルターさんのホビーを通じてデイル・ベルジーのファミリー同様の名匠。
人と出来事の繋がり、です。
で、話はやっと最初に戻って、VELZY Limited、この板は本物のクラシックPIGをギリギリまで洗練させたデザインのひとつ。
ですからレールフォイルも、VELZYならではのボリュームとレスポンスをバランスしたそれ。
ボトムも同じくナチュラルなコンツアーは、そのレベルとカーブをロッカーに応じた変化を連続的変化を与えられて、ボードセンターのプレーニングエリアには、実はカーブの大きい実質的にはフラットパネルのような働きの面が仕込まれています。
このレイアウトはもちろん現在も引き継がれて、VELZYのクラシックラインに共有される基本形でもあります。
それらはこのポストで写真をご覧いただいている、VELZY / Modern Classic, Round Pin, PIGなどなどにも用いられるデザインの基礎です。
ここでお気づきの皆さんもいるかもしれません。
つまり大きく言えば、VELZYクラシックラインの代表的な、Modern Classic / Round Pin / New Tarditional / PIGなどのモデルたちは、デイル・ベルジーの基本的なデザインを共有し、それぞれ独自のアウトラインとロッカーとの組み合わせで生まれる、それぞれの乗り味を共通した乗り心地の良さで楽しめるボードたちなのです。
今日の話の締め、本物のクラシックでサーフィンしませんか、時々は。
PIGとその本質的なサーフデザインが現在あらためて大きな影響を及ぼし始めていることはお話ししました。
そこまで来たら、リアル・クラシックにあと一歩です。
いつもと同じで、どちらが良い・正しいということじゃない。
リアルなクラシック・デザインがサーファーに感じさせる自由で開放的な波乗り。すべての操作と動きがなめらかで清々しいグライド、ログ本来のターンとドライブ。
それらはステップしてノーズライドしなくちゃとかいった、技やテクニックの束縛から乗り手を開放します。
ストレスのないパドルと素晴らしいテイクオフ・いいターンとドライブと動き・流れの中での自然なステップワークとノーズライド、そういうサーフィンへとサーファーの気持ちを自然と導きます。
ロングボード・ライド、今はログ・ライド、優雅にっていうのはそういうことですものね。
そういう気分にさせられると不思議なもので、1本乗ってラインナップに戻ってもすぐに次の波にパドルしたりせずに、2、3本はスルーしたりして周りも波の先もよ〜く見えたりするもんです。
私たち、いつもいろいろな板で波乗りします。だから、時々ってのがいいんですよ。
そうすると、必ずそういう気分に戻してもらえます。
ビフォー・ノーズライダーの世界観。
ビンテージボード、要りません。だってリアルなクラシックですから。
VELZY Classic持っているけどしばらく乗ってないなあ、って人はぜひ引っ張り出してみてください。
持ってない人は、ぜひ1本。