良くできたフラット・ボトムは最高です!、っていう話。
クラシックなログやディスプレイスメント・ハルなどを除けば、現在のサーフボードは基本的にダウンレールを持っています。
ダウンレール・フォイルをシンプルに定義すれば、レールのピークが断面の中心よりも下にあるものということになります。実際には必ずしも中心よりも下であるばかりとは限らず、ピークがやや上にフォイルされるケースも稀にあります。
で、しかもそれらはボードのレール全周に渡るものもあれば、むしろ一般的にはノーズではピークがアップされてテールに向かうに従ってピークがだんだんと下がるという、バリアブルなピーク位置の変化を持つものが今はおおよそ主流でしょう。
そしてこれらダウンレールと呼ばれるレールデザインを持つボードは、タックド・アンダーエッジと組み合わされるのが、これも主流。
レールがボトムとつながるラインにエッジを与えられたデザインですが、多くの場合エッジはテールエリアとそれに近いエリアに明確にシェイプされ、ノーズからボード2/3あたりまではクリスプなエッジは丸められて、いわば仮想のエッジラインがボトムの外周とアンダーレールのつなぎ目に存在するという具合。
今日はそのボトム、つまり仮想のエッジラインを含めたエッジの内側、のデザイン・シェイプの話。
我々がダウンレールの板のボトム、っていう話をするときのボトムっていうのはつまりこのエリアのことなんですが、ダウンレールのボトム、現在はもうほとんどコンケーブ系が占めています。
ボトムのそのレイアウトはこれもまた様々でして、ノーズからいきなりコンケーブが始まるものもあれば、ノーズはコンベックスやスライトVeeで始まりボード中央部にシングルでテールにはダブルで抜ける、なんていう変化系も。
ちなみに脱線ですが、このスライトVeeとかのスライト〜ていうのは、良くスライドと勘違いされがちですが、あくまで軽微なというかつまり"ちょっと"っていう意。
この広い意味でのダウンレールにコンケーブ系のボトム、90年代の幕開けあたりからどんどんポピュラーになり始めましたが、それまではフラット系(というのは、わずかなカーブを持つものもあって)あるいはスライトベベルを持つフラットからスライトVeeなんてのが主流でした。
つまり、"ほじくって"ない。
これがどうだ、一度"ほじくり"だすともうヤメらんない。
なぜならこのコンケーブってやつは、ボードが少しでも推進力を得るとリフトを発生させる。
これはもちろんパドラー(サーファー)にもよるけど、パドルによって進み始めたボードは大小なりとリフトを得るので、つまり浮力がもっとあるのと同じ。
パドルや波のキャッチでは浮力を補い、波に乗ってからはボード自体のボリュームは少し小さくてすんでいるのでコントロール性は上がり動きはクイックになる、と。
そう、スラスターとそのサーフィンの発展とともにポピュラーになったわけです。
で、このデザインは間も無く、色々なサイズレンジに渡ってダウンレール・ボードの基準になっていくわけです。
例えばクルマのタイヤで言えば、バイアスからラジアルタイヤが当たり前になったような。ちょっと分かりにくいな。
じゃあ、スケートボードのウィールがクレイからウレタンになったような。これも、イマイチかも。
ちなみにスケートのウィールにウレタンを実用化したのは、ホントはビル・ベーンさんです。某誌・某記事ではそこんとこ明解ではなかったのでね。
まあとにかく、ここ25年ほどは黙っててもコンケーぶっ、と。
確かにそれは一理どころか二理も三理もあって、どんなサーフボードにも浮力(リフト)というボードの最初の基本たる要求要素をもたらしたわけです。
ここいらでまずは最初のコショウを振るんですが、ということはですよ、板がそれほどの出来じゃなくてもコンケーブは七難とまではいかなくても2つや3つの難は隠してくれる。
これは90年台半ば以降の、主にクラークフォームによるブランクス・デザインの超発達とともに、シーンに"まあまあな"サーフボードが、いろんな意味でそれほど大きな代償無しに供給されるようになった2大要素といっても言い過ぎじゃない。
そしてもちろんたくさんのシェイパーが寄ってたかってその基本デザインを繰り返すのですから、現在においてはそのアベレージも向上しているのです。
世の常、というやつです。
それでもやっぱり、本当にすごい板っていうのはそれを体験したサーファーには"ちゃんと分かる"ようになっているのも、これも世の常。
さてさて、なんでフラットボトムの話のためにここまで時をかけたかと言いますと(書いてる方は、なかなか時間かかってます)、フラットボトム、生半可じゃないぜってことなんです。
誤解のないようにお断りすると、コンケーブあるいはコンケーブのコンビネーションは、同じように本物のデザイン&シェイプ・クオリティによるものは別次元で、しかも多大なご利益があることに変わりありません。
そこでまたフラットボトムに戻ると、コンケーブによって最低保証?されるご利益がないので、トータルデザイン・シェイプによって結果の良し悪しに雲泥の差が出るでしょう。
それこそがコンケーブが黙ってマスト、全盛を謳歌する大きな理由の一つですもの。
いつもお話しするように、引き出しの開く順番とは全く関係無しに、リッチ・パベルは本当にたくさんのデザインを私たちの目の前に削り出します。
そのほとんどはその時生み出したものではなく、彼にとってはすでに彼のキャリアのどこかで十分以上の証明を済ませているものであるのです。
彼が2018年の来日・山王製作で私に残していった板の一つに、ゴールデン・エッグ・シングルがあります。
これこそまさに、リッチのフラットボトムのスタディでありプロモーション・ボードです。
アウトライン、これは限界のない世界。ですから選び出したカタチは一つの取っかかり。
このアウトラインにフラットボトムを最大限に機能させるためのロッカーとフォイル、そしてレールフォイルを、まるで宇宙的調和のごとく導き出して削り出したのがこの板です。
純正のフラットボトムは見事にフラットです。
一つの究極。
てことはですよ、本来は自然界に存在しない(もしかすると、超超高速で動く量子線とか?なんかは?)この真っ平らを、3時曲線集合であるサーフボードに唯一のパートとして融合させるという、実は以前のデザインの引き出しを開けたのではなくて、全く新しい挑戦的なデザインです。
そういうことするんですよ、リッチ。何度も経験して驚かされてるんですから、私。
でね、このことがこのアイデアとデザインとシェイプを見て、すごいな!、っていう話では、もちろんない。
要するに、サーフィンして驚きます。
もうね、速いは当たり前。なめらか、これも当たり前。よく動く、これも当たり前。
もしかしたら最もフリクション・摩擦抵抗が無いのがこれか?!、っていうくらいに軽い。ボードのシェイプとデザイン、そして重さなどからあらかじめ想像する波乗り上の、"ものの重さ"、っていうものがふた回りくらい想像と違う。
しつこいようですが、ここでも言っておきます。
例によって、どのデザイン、どの板が一番だ、という話では、いつだってありません。
ただし、他に無いものがいくつもあるのは確か。
そういう、他の体験とは違う板であり、デザイン・シェイプです。リッチ・パベルの、フラットボトム。
そしてもう一つ、リッチが編み出したフラットボトムがもう一つ、それがダイナミック・デュオ。
またの名を、リッピング・エッグ、ですよ。
このモデルが同じくパベルのフラットボトム・コンセプトを具現した板で(一部、長いカスタムではボトムデザインのコンビネーションを変化させていますが)、このモデルを選んだサーファーは(まだたくさんは作っていませんが)この快楽を秘密にする傾向が見られます。
でもね、バラしちゃうのが私の役目ですからね。
ちなみに私の地元のベスト・サーファーの一人、O君。
自身のショップを持ち近年シェイプにチャレンジしている彼は、時々PAVELをオーダーしてくれて彼自身の刺激にするとともに学んでいます。
そのO君が昨年、"なんでもお任せするので1本作ってください"、というオーダーにリッチがシェイプしたのが、このリッピング・エッグ。
彼がこの板で波乗りするのを見て、"テールの寝"の良さに驚いた私ですが、先日波乗りしながら話している時に彼が言った一言、"フラットボトム、なんであんなにいいですかね???"。
その彼は最近、自分でも削ってフラットボトムを研究中。
本来、シンプルなところなんて一つもないサーフボード。そこにフラットなレベルを組み入れるからには、まさに間違いないデザインとバランスが要求されるでしょう。
稀に、ちまたでフラットボトムを謳う板を見かけますが、仮にそれらを勧められて乗ったら喜びのないものだとしてもそれがフラットボトムだと思ってはいけません。
それは単に、その高度なデザイン・シェイプを満たしているには程遠いだけです。
いいですか、コンケーブと違って"まあまあ"な出来でも、いくらかのご利益があるものではありません。
私たち、普通のサーファーがその練習に付き合わされちゃかないませんけど、だからこそ本物はブルっちゃうほどいいんです。
いいです、パベルのフラットボトム!
GOLDEN EGGと、DYNAMIC DUO