2020.05.26 UP DATE
Vee Bottom

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サーフボード・デザインについての表現や用語は、なかなかややこしい世界です。


特にその歴史や変遷を広く深く知っているサーファーでもなければ、同じ呼称が違うデザインで使われていたり違う階層で使われたりもする、いろいろな見え方の違いに戸惑うことが多いはずです。

ここ何年も、私たちの間で静かに注目されているボトムデザイン、それがVee Bottom / カタカナならブイボトムってなことになります。

ちょっとしたややこしさをクリアするために一つ説明すると、今日のブイボトムはここんとこエムズでよく発信しているファンタスティック・アシッドのV-Bottomとは違うもの。
大きく言えば同じですが、サーフィン・サーフデザインとしては違うもの、ということになります。

Vee Bottomは1960年代後半にボブ・マクタビッシュによって編み出されたものがオリジナルになります。
広めのテールを持つボードのボトム後半部に長くて深いVパネルを持ち、ターンにおいてボードが深く寝ることで当時としてはホットなターンを可能にしたデザインでした。

その一方でハワイの大きいパワフルな波ではコントロールが難しく、ちょうどトランジション時代が開けて、冬のハワイが世界のシーンをリードする時代にフィットする、細身のピンテールが主役になりました。


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ちなみにアシッドのV-Bottomは、そのオリジナルVのコンセプトを発展させて、ディープなディスプレイスメント・ハルとVのユニークな性格を融合させたデザインで、ディスプレイスメント・Vボトムとも言える、それはそれはディープな世界の危ないモデルです。


で、今日のブイボトムの話はそっちじゃなくて、70年代後半から80年代を通してもうほとんどと言っていいくらい多くのサーフボードに用いられたデザインを発展させて磨いたデザインの話です。

もちろんその当時のブイボトムもそのアイデアの基本はマクタビッシュにさかのぼるのですが、すでにショートボードへと完全に切りか変わっていたサーフデザインにおいては、主にボード後半部の後ろ足エリアに施されたパネルVeeのことを指してそう呼びました。

現在、世間の普通の板たちは何でもかんでもとりあえずコンケーブ、みたいなことになっているのでそういう時代が始まってからはブイボトムとあえて呼びますが、その当時は逆に全部ブイボトムだったとも言えます。
もちろん、誤解の無いように断っておくと、メインストリームが圧倒的に集中していただけで、いろいろなシェイパーたちがいろいろなデザインを静かに磨いていたのも事実です。
お忘れなく。


さて、このくらい前置きすれば話がわかりやすくなったと思うので、本式の話へ。
ここではこの板、EISHIN, Sammy Veeを主役にして進みます。

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上で説明したようにVee Bottm / ブイボトムはボード後半部、およそ前足と後ろ足の間あたりからテールにかけてストリンガーを境にV状に折れたパネルデザインです。
そのVの深さはオリジナルのマクタビッシュやアシッドの強烈に深いVほど深くありません。
このVパネルはその深さの程度はテールに抜けるまでのエリアによって変化するのが普通です。
もっとも典型的な変化の例はVパネルがゆるく始まり、テールに向かって少しずつ強くなりフィンエリアあるいはその直前でもっとも強く、テールエンドではややゆるく戻る、といったものです。

Vee Bottomはいろいろなボードデザインに適応し、このSammy Veeのようなミッドレングスのフルボディから普通のスラスターでもシングルフィン全般やダウンレール系のロングボード全般でもカバーします。
実際、80年代から90年代初頭あたりまではまさにそんな感じ、どんな板もみんなでV。

ところが、現在色々な板たちを見渡してみると、このVee Bottomを用いた板は驚くほど少ないのです。

そしてもちろんノーズエリアからエントリー、前足エリアのボトムデザインはそれぞれの板によっていろいろです。

この話の最初のあたりで書いたように、ここ数年、6年前あたりからかしら、初めは山王の健ちゃんと始まりました。
私たち二人とも乗るたびにいつも唸らされて、大好きな板にEATON LBという主にミッドからロングボード・プラットフォームに用いられるデザインがあります。
このデザイン、独特でとても機能的なダブルエッジをボード2/3に持ち、それと入れ替わるようにボード後半およそ1/3にVeeを持つものです。

この板がですね、これ以上何が要る?!、っていうようなサーフボードの一つでしてね、速く・滑らかで・どんなレベルやタイプのサーファーの操作にも従順で・サーフィンできるどんな波でもカバーする、見本のような板。

そういう板は他にもありますが、セールストークで語られるほどには、実はそれほど多くない。
そういう本物の一つ。
で、また、そういう板は是非とも今式の流行りっぽい色や柄絵をまとっていないってのが通だわ。
ここが遊べないようならショッピングモールへどうぞ、ってなもんだ。余談だが。

そのEATON LBは私たちにとっては長い間の定番の一つだけど、6年ほど前から時々"やっぱりいいね!"ってくり返し話題になってます。

で、それとは別に数年前に私が企画させてもらったサモアへのサーフトリップ企画で、雑誌Blueの記事のためのトリップに参加してもらった佐藤英進がトリップのために用意した板があった。

その1本が7'10" Sammy Vee。もう1本は、VELZY 7'4" EGG。
当時サモアへのフライトで持ち込める板は8'まで。プロ・ロングボーダーである英進は短い板は同道する他の二人のサーファーに借りるとして、自分ではミッドレングスをバラエティしたというわけです。

何を考えたか英進、その時デザインを完成させたこのSammy Vee、たぶんけっこうなワールドクラスのリーフブレイクに持ち込むのに、なめらかさが妙とも言えるVee Bottomをイメージしてシェイプした。
その未知の波に臆して守りのデザイン・シェイプではなくて、行ったこともやったこともない波にその発想をトライするところとか、そういうとこがリッチ・パベルが買うんでしょう。

何しろそのサモアに持ち込んだSammy Vee、素晴らしいパフォーマンスだったそうで、その波にノーリーシュで臨みクリエイティブなサーフをする英進を、トリップに同道したフォトグがいわく、ハラハラしながらいいもの見ました、と。

で、そのリポートを聞いて満足した私は、ところでそういう波の話はおいといて普通に波乗りしてどうなの?、と訊けば英進、あの板いま友達が乗ってるんですけど長い付き合いで見た中でもベストのサーフィンするんです、と。
なにぃ?!、ってわけです。

そういうことなら、ちょっと私にも乗せてよ、ってんで借り出してみたら、これがあのEATON LBで得られる不思議で同じ感じの、"満たされ感"なんです。

そこで我々は、"よくできたVee Bottom"、ヤバい、と確信したわけです。

このSammy Vee、もうちょい詳しく説明しましょう。

アウトラインはご覧の通り、フルボディのミッドレングスの、いかにもいつでもなんでも来い!式のフレンドリーなカタチ。

レールはスムースでミディアムなダウンレール。

フォイルは、幅に対してボリュームを抑えたノーズから、とても穏やかなデッキロッカーでナチュラルに十分なボリュームポイントを過ぎて、ボリュームを控えたテールエリア。同時にボード全体としては十分なボリューム。
テールの、控えたボリュームにテールエンドにだけわずかなボックスを持たせて、テイクオフやターンのリリースの歯切れの良さを作ります。

いざ波乗りしてみると、十分なボリュームと、ボトムはイーブンなローロッカーで、パドルもテイクオフもスムースでナチュラルで、タイミングもとても早い。

で、特に感激したのが、つまり私たち日本の多くのサーファーにとって普段の波、ということはなかなかのサイズにならない限りパワーが"それほど"無いでのターンの滑らかさ。
ここで言うターンはテイクオフすぐ後のトップターンやアップ&ダウンや、ためたボトムターンまで、板のボトムを面で感じつつ板全体を丸ごと踏むイメージで扱いながら、なおかつ板が大きく感じない。むしろ小さく感じるくらい。
例えば、ほどほどサイズのあるクルマを速く走らせているのに、四隅が分かりやすくてハンドリング良くて、どう動かしているか手に取るように分かるみたいな、自由度。

いつもの通り、どちらの方が良い、という話ではない。
現在、とても多くのサーフボードに用いられるコンケーブ・ボトム。
一概にコンケーブ・ボトムと言ってもスラスターをはじめとする所謂ショートボードや、そのデザイン志向を転換させたオルタナティブ系デザインの流派。
それらの多くは近年のショートボード・サーフィンで典型的に見られる、蹴り入れるようなボード後ろ半分の踏み込みからの反発でスピードを得るプロセス。
これは世界のトップ・コンペティターたちの多くに見られるくらいだから、レベルの違いは当然でも日本のアベレージ・サーファーにも完全に定着しているわけで、これは勘違いすると単にバニーホップになってしまうけど。
で、それはキャリアの基礎にスラスター・サーフィンを持つシェイパーたちのサーフデザインにも深く食い込んでいます。

ここでひとつの例で、現在見られるエッジボードの多くは表の顔カタチは色々でも、ボトムに張り付いたもう一つのボード=エッジボードは実にショートボード的。
軽量なエッジボードをコンセプトにするシェイパーにもこれが見られて、それはやはり今的なショートボード・サーフィンとのメンタリティとフィットが良い傾向と見ました。
同じエッジボードへの傾倒でも、グライドとフロウ、クリスプなマニューバーよりも流れを好めばボード自体の重さを求める傾向。

ここで分かるのは、私たちが、スラスターってなんだ?、というクエスチョンの答えは今では単にフィンシステムではなく、このターンアプローチの感覚ということを突き止めたわけです。

あ、これ、話が脱線です。

そうはいってもコンケーブ・デザインは世間で言われているよりも、高度なデザイナー・シェイパーたちの手にかかると、実はもっともっと迂回的でもあります。
料理に使う塩や砂糖が、単にしょっぱいか甘いかだけに使われるのか、いやいや隠し味であったり反力的に用いられるかまで作用をひねって(実はそれがデザインってものだが)持ちいるかの、大きな違い。

それはわざわざめんどくさいことを仕込んだわけではなくて、絵画のようなもの。
黒に見えるところに近づいてみたら、どこにもただの黒はなかった、みたいなね。

まあいい。

とにかくそんなわけで現在では仮に2次元的であろうと、コンケーブがボトムデザインの基本みたいなことになってる中で、"良く出来た"Vee Bottomは新鮮なだけでなく、例えばどこからでも聞こえてくる手クセでできた音楽とかなんとなく真似をつないで作られた音楽が当たり前だったことろに、もろに生き生きしたグルーブ食らったみたいなもののひとつである、と言いたい。

いや、重ねて言わせていただくと、どれがより良いという話ではありません。
ホントにいいのは、いつだっていいし、色々なサーフデザインのそういう板がラックに増えていくのがサーファーにとっては代えがたい幸せです。

そのようなサーフデザインを与えられた板は、自分のラックに色々ないい波を供えるのと同じこと。
もちろん乗り手次第のもう半分は、波乗りですからね、終わりのないパドルのようなもの。

もひとつ、脱線を繰り返すのは、ここBackdoorでの仕方ない癖みたいなもの。

なにしろ、このSammy Vee、ハッピーなVee Bottomのサーフィンがギャランティです。
サーフィン業界がブイボトムを無視しまくってるのが不思議なくらいですが、とはいえVee Bottomならいいってもんじゃない、
"良くできている"から先、であることは言うまでもありません。


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