リッチ・パベル・シグネチャー・ブランクスの第3弾、USブランクスからリリースされました。
1950年代終盤に登場したウレタンフォーム・サーフブランクス。以降、サーフボード・ブランクスの進歩と進化をほとんど一手にになったのがクラークフォームでした。
そのクラークフォームがまさに突然クローズしたのは、2005年12月5日。
それはサーフボード業界をパニックに陥れたのです。
クラークフォームを率いるグラビーさんが、突然その生産をストップしたばかりでなく会社を閉めてしまった真のいきさつ、これがまたすごい話なのですがそれはまた別の機会にお話ししましょうね。
それまでもアメリカにはもちろん、オーストラリアやいくつかの国でサーフブランクス・メーカーがありましたがそれらはそれほど多くないだけでなく、ブランクスとしての評価と生産量はクラークフォームが圧倒的でした。
その理由。
豊富なブランクスのサイズやデザインのバリエーション。
フォームのデンシティのバリエーション(これは同じモデルでも重量を選べるとともに、強度の違いにもなる)。
フォームの安定性(生成されたフォームのセルの均一性や、経年変化に対する安定性など)。
ストリンガーの種類とクオリティ、ストリンガー・レイアウトのバリエーションとその自由度。
それらの良いデザインのブランクスをベースに、ストリンガーやロッカーをカスタムしてオーダーするスペシャル・ブランクス。
おおよそ説明するだけでも以上のそれぞれが圧倒的に優れていたのです。
そしてそれらの全ての要素が、長いサーフボードづくりの歴史とともにお互いに影響を与えながら、補完し合いながらクラークフォームも発展しました。
そのクラークフォームがある日突然クローズしたのですから、それは当然パニックです。
その後の、まずは5年間の間はクラークに続こうとするブランクスメーカーがいくつも現れました。そのうちのいくつかは今でも残り、いくつかは数年で消え去りました。
そのパニックが収まってみると、US Blanksがクラークフォームの跡目を継いでいました。
長年クラークフォームで働いたエンジニア達の多くが直接・間接に関わることにもなり、実質的にクラークフォームが積み上げた遺産を引き継ぐことになったわけです。
普段サーファーはサーフボードに興味があっても、サーフブランクスがどれほどサーフボードのデザインとシェイプに直接的な影響を与えているのかまでは想像しないものです。
特に現在は、ほとんどのサーフボード・シェイパーにとって、選んだブランクスのデザインがこれからシェイプするサーフボードの基本を決めるほどなのです。
現在、と言うワケ。
ウレタンフォームのサーフブランクスが発展してきた過程とともに、世界中のサーフシーンそのものが発展・拡大してきました。
当然、サーフボード・デザインをリードする限られたシェイパー達のデザイン・シェイプはその他の大勢のシェイパー達に影響を与え、彼らはそのデザインのキモに近づきたいと考えてリーダー達のデザインをフォローしようとトライするのです。
上でも触れたサーフボードの基本、最もそれを左右するのはアウトラインとロッカーです。特にロッカーはサーフィンの最も大事なスピードとドライブを支配します。
ロッカー、と言うと普通はボトムロッカーの事と思い込みがちですが、デッキロッカーはボトムロッカーの働きを変えてしまう要素で、その二つのロッカーが作り出す要素がフォイルです。
フォイルという言葉はいくつかのパートに使われるのでちょいと注意、ここでは最も基本的な要素である二つのロッカーが生み出すフォイルについてです。
そして次にアウトラインです。アウトラインは平面的に捉えられがちですで、実はここにも3Dが隠れていますが、その話もまた違う機会があれば。
少なくともアウトラインを平面的にシンプルに扱えば、少なくともカタチは、描き出すことができます。
ではロッカーはどうでしょう。もちろん図形的に、例えばロッカー・テンプレートなどを作り用いればトライも再現も、理論上でも物理上でも可能です。
ところがここに、現代のシェイピング・プロセスの基本を支配している事情が大きく作用します。
シェイプの初期段階のプランシェイプは、ブランクスの持つボトムのロッカーラインをプレイナー(電気カンナですね)で何度かカット(往復して削りますね)することで始まります。
この段階で、そこでシェイプされるサーフボードのおおよそのボトムロッカーが決定されます。
もちろん部分的に削ることでロッカーの一部のカーブに変化をつけて違うロッカーを生み出すことは可能ですが、カーブのデザインとその整えを見事に着地させるとなると、これはまた別次元の技となります。
つまり少なくとも一般的なプロセスでは、ブランクスの持っているロッカー・チャートにほぼ準ずるボトムロッカーを持つサーフボードがシェイプされます。
そしてデッキが削られてレールがフォイルされて、そのサーフボードの体が姿になっていきます。
今度はそのデッキのロッカー作りがボード全体のフォイルになるのですが、そのフォイルの良し悪しによってボトムロッカーの働きが変わります。
仮にボトムロッカーがブランクスの持つデザインを生かしたシェイプがなされたとしても、デッキとレールの作り、そしてもちろんアウトラインやボトムデザインなどで様々なクリエーションが生まれます。
ここまで説明してきたことから分かるように、現在はブランクスのデザインが良ければ、少なくとも良い(か、それほど悪くはない)ボトムロッカーを持つサーフボードを作りやすい環境です。
ですから多くのシェイパー達は良いデザインのブランクスを求め、ブランクスメーカーはシェイパー達にコンスタントに良い結果をもたらすことができるブランクスを数多くラインナップしようと努力するワケです。
つまりブランクスメーカーにとっては、いかに良いデザイン・シェイプの能力を持つシェイパーにブランクスデザインを依頼できるかが大きな分かれ目になるのです。
今、ブランクスメーカーのトップに君臨するUS Blanksでは、例えばティミー・パターソン、パット・ローソン、エリック・アラカワ、そしてリッチ・パベル。
ミッドレングスやロングボードでは、ロジャー・ハインズ、ブルース・ジョーンズ、レニー・イエーター、そしてデイル・ベルジー。
そういった錚々たるサーフボード・デザイナー達にブランクス・デザインを依頼して、素晴らしいシグネチャー・ブランクスがラインナップしているというわけです。
今回、US Blanksのラインナップに加わった、63 RP、すでにベストセラーになっている510 RPと68 RPという二つのシグネチャー・ブランクスに続いてリリースされました。
すでに世界中でほとんどのシェイパー達に使われている、510 RP / 68 RPはフィッシュやエッグ、良い加速フォイルを得られるシェイプの底上げのルーツになっています。
リッチのシグネチャー・ブランクスはクラークフォームにも存在していました。写真にある、62 Cがそれです
US BlanksのシグネチャーではリッチのイニシャルであるRPを名乗りますが、クラーク時代は彼の持つブランド名の一つ、ChiceのCが付けられていました。
ちなみにこの写真のクラークの62 C、リッチが今年エムズ・山王に持ち込んだもので、レアなだけでなくもちろんプレミア。
実はこれを使ってデリック・ダーナーからオーダーされたフィッシュを削り、山王で巻いて日本の後のハワイに持ち込む予定でしたが、残念ながらスケジュールが間に合わず断念。デリック、ごめんね、になってしまいました。
デリック・ダーナー、もちろんあの人物です。
新しい 63 RPはどんなことを起こすでしょう。
このシグネチャー・ブランクスのもう一つ新しいポイント、極端に言えば皮を剥くだけで水準以上のいい板ができます。
そこまで至れり尽くせりのデザインになっていますが、リッチ・パベルいわく、"いいシェイパーにとってはすごくクリエイティブなブランクスだよ"、と。
つまりここまで出来上がっている、63 RPの一見するとタイトな姿の中に、さらに際どいアイデアとデザインをシェイプできる超上級者向けの面も持っているブランクスということです。
まるで、リッチ・パベルのワークショップのようなブランクスの登場です。