ファンタスティック・アシッドを日本に紹介して以来、このテールはいったいどんな働きなんですか?、というご質問をいただきます。
これ、実は生まれはかなり古く、このようなグラスファイバー・パネルをテールエリアのどこかに機能パートとして用いるアイデアは60年代、つまりロングボード時代にはすでに登場しています。
その後、ハルにもフレックステールとして流用されるのですが、定着を見なかったのはなぜでしょう。
いくつかの理由が考えられるのですが、まずはとにかく早すぎた、んじゃなかろうかと思っています。
サーフボード・デザインとシェイプ、またマテリアルの水準、サーフィンそのものの平均的なパフォーマンス・レベルとそれに伴うアイデアとクオリティの水準、技術的な水準、そんなもろもろの要素がこのアイデアを消化するには早すぎた。
エムズとわたしたちが昔から関わるサーフボード達は、いまやオルタナティブなんていう立派な名札を付けられてカテゴライズされる時代になりましたが、それらの作者やサーファーはそういういろいろな、時にはとっぴに見えるアイデアでも試したり発達させる指向にある。
とは言え、共有が進み一般化するものもあれば、ごく一部の作者やサーファーによって地下で黙々と育てられるものもある、というのはみなさんすでにご存知。
フレックステールはハルだけでなく、フィッシュでも、そのスプリットテールの両翼に用いられている例を見たことがあるでしょう。
さてハル、典型的ではあっても一つの代表的なデザイン例にとらわれてはいけないが、ここではその代表的なデザイン例に乗って説明しましょう。
ところで、これテールの話なのでここではテールエリアも働きに的を絞りますね。
もちろんサーフボード、どこかのパートだけで働くのではなく、常に他のパートや要素とつながっていることを忘れちゃいけません。
ハル、ディスプレイスメント・ハルですね、フレックスフィンとテールが連動しているイメージで見ると分かりやすい。
例えばボトムターン。
ボトムのタメでは、まずフィンはその柔軟性によってターンの外側方向からの力を受けて内側にたわみます。
そのフィンにかかる力によってフィンを保持するボードのテールにもねじれの力が伝わります。
同時に(たいていは)薄めにフォイルされたテールそのものによって、テールはボードの前後方向のにもたわみます。
つまりボードのテールは反りとねじれが起きる、と。
サーファーがボトムで一杯にタメたパワーを解放してトップに向かう動きをすると、その反ってねじれたテールとフィンは一気に反力でスナップします。
そいつがテールのボトムにシェイプされたフラットなパネルの作用とともに、テール自体が板を押し出すパワーをブーストするわけです。
この一連の作用をイメージしながら、テールの反り・たわみとねじれを主に受け持つエリアだけをすごくフレキシブルなグラスファイバー・パネルに置き換えたら、さてどうなりましょう?
もうお分かりですね。
さらに柔らかなスナップ性を持ちつつ、しなやかなターンのフィーリングになるワケです。
ところでフレックス・パネル、それだけ柔軟なのですからターンだけに反応するとは限りません。
たとえばサーファーがバランスをくずしたりなどの、ちょっとした不用意なボードに伝わる動き。そういうものにも実は少々なり反応します。
そのような波乗り全体にある動作・操作に対して強調された働きが欲しいところではそのように働き、そうでは無いところでは神経質ではない。
これは、ボードそのものと同様、よく出来た(バランスされた)フレックステールです。
ところで、このようにバランスされた、本来のボードにいきなりイフェクトパーツを組み込むような造りに到達するのは例によって簡単ではないわけです。
しかも、上でも説明したもろもろの条件をクリアしなくてはいけません。
ファンタスティック・アシッドのトリスタンは、彼自身のたぐいまれなグラスワークのテクニックとクオリティ、サーフボード・デザイン&シェイプの才能、そして呆れるほど旺盛な探究心によってディスプレイスメント・ハルのすべてのメニューを高みに昇華させています。
エムズのサイトのどこかで書いたことがありますが、彼はファンタスティック・アシッドのボードだけでなく、何度も訪れて仕事を残しているカリフォルニアでは彼がグラスの仕事にやって来るのを待つハイクオリティ・ガイ達がいるのです。
その彼が昨年あたりからカリフォルニアで製作するフレックス・パネル案件、もちろんアシッドのフレックステールやスプーンなどですが、それがまためちゃめちゃ人気が高い。
トリスタンが私に面白がって言います、カリフォルニアの人はホント、急にフレックスもののオーダー多いよ!、って。
で、さらに面白いのは今年あたりはアシッドの影響がハル生誕地であるカルフォルニアを逆に刺激して、いろんなメーカーや製作者がフレックスものをやり出しています。
オリジンを学び抜いてベストに発展させたトリスタンの作品を見て乗って、逆にオリジンの地がそこから学ぼうとしているという歴史の今です。
ずいぶん前からフレックステールの楽しい板をいくつか体験していますが、私が特にアシッドの板で感心したところが他にもあります。
グラスファイバーを積層してパネルを作るというまったく別な工程を要するフレックスパネルですが、トリスタンのそれはまったく立体的な面作り、つまりパネル自体も3Dな面を持ち、ボード本体と見事に連続したサーフェイスとカーブを狂いなく造られているところ。
写真を見ただけでは分かりにくいところですが、これは秘技のレベルです。
さて、写真ではアシッドの2種類のフレックステールを紹介しています。
一つは、シンプルにフレックステール。もう一つは、トーションテール。
どちらもフレックステールですが、どっちがどっちかはみなさんお分かりですね。
反りとねじれの両方を持つもの、ねじれ(トーション)を主に生むもの。
ここでもう一つイメージしてもらいたいのは、その反りとねじれの他にもう一つ働きがあります。
ターンの時にテールにかかる力によって起こる動的な作用、つまり反りが加わったりレールラインがねじれたりする、ということは一種の可変ロッカーでもあるのです。
サーファーの踏み込む力のコントロールによって、その可変量を変化させることができるので、ハル本来のテールロッカーを抑えたテールのキャラクターとは違う、ターンの弧をより柔軟に積極的に変化させることができます。
ここをお話しすると、じゃあ全部フレックステールの方がいいじゃないの、とはならない。
やはりあの不思議なパワーで板を押し出すコンベンショナルなデザインは、ディスプレイスメント・ハル家のど真ん中。
ファンタスティック.アシッドのフレックステール・トーションテール、ハルにハマったサーファーのバラエティに無くてはならない1本。