2018.06.13 UP DATE
追体験

現代サーフィン史の過程で生み出されたデザインは数えきれないけれど、フィッシュの復興以降、掘り起こし探検隊よろしく、一度は忘れられたデザインの再検証が続く。

私はこのあたりのことを取り上げることも多く、何度かお話ししているから今日はそっちのことは省いて進むとして、ここで紹介する佐藤英進作のこの板は違うアプローチのプロジェクト。
というか、そうなっちゃった。

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ちなみに私も英進も共有し、忘れないでいること。
ただのコピー(できたとして、ね)や、写真で拾いまくったデザインのモノマネには興味は無い。
そして私たちが預かるブランドの中では、オリジナルデザイン以外のものは高度なトレーニングとオーソライズを伴います。

およそ10年ほど前になると思うけど、アンドリュー・キッドマンが彼の名付けた "DREAMBOARD / ドリームボード" を完成させてメディアでもお披露目されることになったのは。
彼は素晴らしいサーフムービーをいくつか製作し、またセルフシェイプのサーフボードを追求し、いくつかの素晴らしい読み物を書いています。

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アンドリューさんのシグネチャー本、"LOST IN THE ETHER"はその中でも彼のサーフボードの追求テーマを結集したとでも言える限定出版の佳作でして、巻末にはDVDまでついているという、まるごと研究発表書。
もちろん英語で書かれてはいるんですが、個人個人の英語慣れの違いはあっても好きな人なら休み休み読めばたぶんけっこう理解できるところもあるし、私のチンピラな読み書き式でもあらかた楽しめますから。

この本のラストパートで紹介しているのが、ドリームボード。
私たちも同様ですが、いろいろなサーフデザインに関心を持つ彼は当然ながらフィッシュのポテンシャルと高い機能性に出会い関心の追求をします。

彼の見つけた"彼の"発見、彼の所有するスキップフライ・5'10"フィッシュがとても優れたデザインであり、サイズのある波での素晴らしさの一方で小さな波でスピードを得ることの難しさ。
さーて、すでにここで私たちは混乱です。

つまり日本のサーファーだけでなく、例えばカリフォルニアなどでも小さな波でのフィッシュの優位性はすでに数えきれないくらい見ています。
そしてもちろん、特にここ2〜3年はサイズのある波でフィッシュのハイパフォーマンス・サーフィンの開拓が目覚ましい。


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一旦、アンドリューさんのコンセプトに戻ります。
彼は小さな波でのフィッシュのスピードゲインのために、スキップフライ・フィッシュのプランシェイプそのままにテールをフィッシュから大きなスカッシュに置き換えるアイデアを試した。
そのテールデザインは、その少し前にカリフォルニアで体験したばかりのジョー・ボーゲスが編み出したミニシモンズの圧倒的な瞬間移動的スピードゲインにヒントを得たものです。

ボトムはノーズからテールまでパネルVEEを通して(もちろんエリアごとの強弱があるでしょう)、テールには8チャンネルをほどこす。
このチャンネルは彼いわく、コントロールのためにということで、やはり同じ本の中で触れているポラードのチャンネルも学んだことが分かります。
そしてレールにはモダンなボックス(たぶん、スモールボックス)。

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フィッシュのプランシェイプにミニシモンズのテールをくっ付ける、古き英国バックヤードビルダー式にも通じるような手法ですが、独特なクラフト精神を感じる。
それよりも、逆に私たちが発見したことはまた違うありがたい教えなんだが、それは後。

彼は自身の名作サーフムービー、LITMUS / GRASS LOVEなどの製作を通じてフィッシュに精通しその高機能を体現する素晴らしいサーファー。
私は彼とリッチ・パベルとのディープな交流も知っていますが、それもそうと、ここで読んだストーリーで感じた不思議感。
それが、英進のドリームボード追体験プロジェクト(に、なっちゃった)で腑に落ちたわけです。


そもそも佐藤英進がこのデザインを追ってみるキッカケは、よくあるように単純な話。
ごく親しい仲間の、あの板とできるだけ同じのに乗ってみたい、というリクエスト。
であるからして、不遜にも一見そっくりサンを削ってほーれ出来ました、式のものを商品として安易に世に出すマネはできんね、ではもちろん一致してます。
あくまで内々な体験式。
もちろん、ここから先の話を読んでいただいてその仕掛けと感覚を理解して、ある種のそのへそ曲がり探検隊に参加したいっていうサーファーとはチャンスを共有することが可能でしょう。


その結果、得られる限りのデザイン要素を結集してでき上がったドリームイエロー(私が勝手に付けてます、名前)、デザイン・シェイプは望んだ以上の上出来。

そしてリクエストした張本人と製作者自身のサーフ・インプレション。
スピードの得やすさとチャンネルのコントロール性はそのままその通り。
ところがその前に、それが気持ちよさを伴うためには正しいサーフィン(たぶん上手いでもいいんだが、時には上手くやれるっていうのもあるからね、あえて)を要求される。
つまり例えば私が大好きな、楽に速くていい動きする(悪くない、どころか最高だ)ようなつもりで、それもまずい扱いでそれを要求すると、ドリームイエローは動かない難しい板である。

あれ、そういう板、他にもいくらでもあるんじゃない?
この話、ちょっと違うんである。

確かにアンドリューがその本にあるDVDで見せるドリームボードのサーフィンは、彼にとっては小さな波でも私たちにとってはとてもいい波。
そこが単純に、違い、の正体でもない。

私たち、ビルの10階から落っこちるウルトラ・ビッグウェーブの世界や世界一のトップ・コンペティターのサーフィンと我々のサーフィンとの、説明も出来ないがその必要も無いほどの違いはとっくに理解してますね。
で、もちろん、アンドリューのサーフィンも見るだけでかなり以上の違いがあることも知っています。

ところが同じような板を楽しみ、時には共有できるような波もある。


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佐藤英進の説明をまとめてみますね。
『動かないけど基本的エレメントは完璧。動かせないのはサーファーのせい。ここがアンドリューが隠しておいてある部分だと思うんです。
オージー独特の感覚とも言えるところでも。
そこがフィールドが揃っている人なりの意見、とでも言えるデザインと強く感じました。

ファンクション、動きの特性、その点も同様でそのような個性と感覚に強く沿ったデザイン。
サーファーの足もとのコントロール下で、一番のスピードを得た上でのマニューバーを想像してなし得るサーファーには、やはりドリームボードなのでしょうね。

サーファーとしての素養はもちろん、ものすごくフィールドの豊かさゆえの贅沢な理由ですよね』


いくつかバランスのための足し算引き算をしてみても、私たちの手にしているフィッシュはもっとも高機能でデイリーな小さな波でのスピード性においても最上のもの。

フィールドの揃いまくったOZでの多く見られる、サーファーと板との関係やそのメンタリティ。そこから生まれるサーフボード・デザインの多くが意識されていてもいなくても、ある種の制御性を持ってる、ってなことを私は長く感じてきていましたが、図らずも個人的にはそちらも腑に落ちたプロジェクトでもあります。

アンドリューさんの言う、サイズのある波でのフィッシュの爆発力、それを小さな波でも大きな波でのそれと同様に得たい。
そこ実は、私たちだけじゃなくて、たくさんのステージの高いサーファーたちのコメントとの違和感のあるところってのはいろいろな映像を見るだけでも分かります。

デレクさん、アンドリューさん、ありがとう!
最高。

これだからサーフィンは面白い。いや実はサーフィンだけじゃないはずだけど、サーフィンの世界にはこういう謎かけがたくさん起こっていて欲しいと、私は思います。
難しいこと言ってるようだけど、ぜんぜん簡単、難しく考えちゃダメ。
最近は蹴られる発言だろうけど、こういうシャレがないとサーフィンはダサくなっちゃうし、サーフィンじゃなくなっちゃう。

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