反響も大きいし詳しく知りたいという質問も多いので(とはいえ、マイノリティ、であることに変わりないのですが)、このモデルについて何度か追加で紹介をしましょう。
すでに以前のポストでもお伝えしているようにマリブ・チップ(単にチップとも呼びます)は1940年代から50年代を通してサーフボードの基本形でした。
当然ながらそれ以前のプランクやホットカールなどもある日突然チップに切り替わったわけではないものの、現在のように多様なデザインがなかったその時代、チップは現在のサーフボードの始祖ともいうべき機能性を持って登場してつまりそこからしばらくは全てのサーフボードがチップとでも言える時代が続いたわけです。
その後50年代の中頃にデイル・ベルジーがPIGを生み出すと、ターン、つまりマニューバーの起こりがサーフィンに生まれました。
面白いことにベルジー・ピッグはすべてのサーフボードをピッグに変えてしまうほどの影響力で、今度は60年代終わりのトランジション・エラの幕開けまで何かしらピッグのデザイン性の影響が残りました。
そのトランジション・エラは同時に、狂ったようなノーズライドブームも終わらせてしまったのは、サーフィンがまだ一方通行的な発展をしていた時代を表しています。
さてところでマリブ・チップ、トリスタン・モースがなぜ今になってフォーカスしたか。
もちろん今までにもチップを製作するデザインの対象として扱ったシェイパーはごくわずかではあるものの存在します。
すでに逝去から時間が経ちましたが、デイル・ベルジー自身はいかにもデイルらしく、色々なデザインと共にマリブ・チップはメニューから外れたことがありませんでした。
私自身もデイルにバルサ・チップをオーダーしたのが30年近く前、それ以後は何かきっかけがあると持ち出しごくたまにサーフします。
トリスタンはファンタスティック・アシッドにおいてディスプレイスメント・ハルを専業とする製作活動を続けていますが、彼自身が言うように大きな視界で見ればマリブ・チップはハルの先祖でもあるわけでチップを研究して掘り下げることは彼のライフワークの課題に避けて通れないテーマとして自然です。
エムズの板を楽しんでいただいている皆さんやこのサイトをご覧いただいている皆さんはすでにご存知のように、トリスタンは稀代のサーフボード・サーフィン研究者でありとてもピュアで真にいいサーファー。
ハルであらゆる波に乗り、およそハルに類するデザインはサイズを含めて網羅する、喜ばしい意味でのマグニフィセント・マッドネス。
ですから昨年あたりから回転を上げて実行し始めたマリブ・チップのプロジェクトは、彼らしい恐ろしいほどのスピードで深度を深めています。
それは当時のままの(今の目で見れば)雑な作りやデザインを再現しようというようなアプローチとは真逆の、チップが持っているデザイン性の本質をトリスタン自身が身につけた最高のシェイプ力とデザイン力と熱いハートで磨き上げて波乗りを楽しもうじゃないかという行為。
トリスタンの今年の来日山王製作の滞在中に下北・アドリフトで開催したエキシビションでのメイン・コンテンツである映像作品・ソラーズ/サーフィンの中でも、いくつものハル・サーフィンとともにもう一つのハイライトはマリブ・チップでのサーフィンであったことを記憶にとどめたサーファーも多かったと思います。
マリブ・チップの波乗りは現代においてはつまり、上でお伝えしたようにピッグ以前のサーフィンがイコール・トリムだった時代の、ピュア・トリムにフォーカスしたサーフデザインでありスピリットでもあります。
皆さんや私たちがその日チップの波乗りを選択するということは、その日の何本かの波を最もピュアな波乗りにします。
もちろんトリスタンが磨き上げた板ですから、当然のターンはシンプルに簡単。
あとはポジション・チェンジのためのターンやポジショントリムの他には、ひたすらスピード・トリム。
それが楽しいと思いなさい、ではなく、それほどチップがそれら一連の操作と主役であるスピード・トリムを波から取り出すことに優れたデザイン・シェイプであるということです。
そのシンプルさが見事にデザインされているシェイプ、それがトリスタンのマリブ・チップ。