少し前にもちょこっと紹介しているニューデザイン、トリビュート・フィッシュ。 このモデルは特別な存在になるでしょう。
リッチ・パベルのPAVEL、どの板どのモデルも順位付けなんてできないし、リッチは一時期に賞味期限を終える流行り物なんて作らないし、ましてPAVELフィッシュの中でこれが一番、なんていう話でもありません。
こちら、5'11" カタチのオーラ!
ですがこの板、特別な存在です。
FISHのオリジン、そうですねえ、それは60年代の終わりに生まれましたがその後のごく短い期間にファーストフェイズの完成を見ました。
いわば、その最初のチャンピオンFISHを超洗練させたシェイプ。
それはアウトライン・フォイル・ロッカー・レールフォイル、それぞれの細部にまでカーブとその組み合わせ・流れをザ・ベストに選んで選び抜いて最上の美しいラインに到達させたもの。
それはギミックも付加物的なコンケーブなどを一切排しています。
例えばコンケーブだけをとっても、誰も思いもしないカーブを仕込むほどのリッチが、それすらを用いずにオリジンの美しさと波乗りの驚きを、彼自身の最上のフィッシュたちに並べてもどれにも真似できないサーフデザインです。
このチャレンジの発想は、最も勇気のあるデザイナー・シェイパーであるリッチ・パベルだからこそ、感動しました。
このモデルに取りかかるきっかけは、VARIALブランクス専用にデザインされて今は廃番となった、WILL & GRACE / ウイル&グレースです。
ウイル&グレースが廃番になった理由は、VARIALフォームを削る時に発するガスの性質がリッチの体質に合わず、健康被害があることがわかったからです。
ウイル&グレースは残念ながら廃番になりましたがとても素晴らしいモデルでしたので惜しむ声もいただき、私たちとリッチはウレタンブランクスでこれに代わるデザイン・シェイプをプランすることになり、その結果今年の来日山王製作でリリースできることになったのが、ここでまた紹介しているトリビュート・フィッシュです。
ウレタンフォームとバリアルフォームはマテリアルや組成が違うだけでなく、サーフボードとしてシェイプされグラスされれば動的特性や機能的特性がかなり違うものです。
ですからこのトリビュート・フィッシュはウイル&グレースとはデザイン性もかなり違うものです。
代わるモデル、というのはリッチ・パベルにとっての両モデルに共通する存在性のようなフォーカスです。
で、これは、6'5" そう、サイズレンジが広いのもこのモデル。
フィンもこのモデル専用にデザインしています。
そもそもウイル&グレースが生まれたきっかけは数年前にリッチ・パベルがトム・カレンと交わした話題から始まります。
リッチ・パベルは地元サンディエゴはもちろんサンタ・バーバラで過ごす頻度も多いのですが、その時もサンタ・バーバラにいたある日、トム・カレンと彼を追った有名な映像作品・サーチング・フォー・カレンのフッテージの中でのトムのフィッシュ・ライドの話になりました。
この場面は南アフリカでのロケ中、デレク・ハインド宅の近くのブレイク、板もデレクの所有するスキップ・フィッシュ。
この時の波乗りはフィッシュライダーたちはもちろん、スラスターライダーたちには特に大きなショックを与えることになりました。それは、当時フィッシュに近づくことはもちろん関心すら持たないことがほとんどだったスラスターライダーにとって、ヒーローであるトムが突然フィッシュの素晴らしいフロウのあるサーフィンを見せたからです。
すでにフィッシュに馴染んだサーファーにとってはお手本のようなトムのフィッシュ・サーフィンは刺激でもありむしろウエルカムでしたが、スラスターライダーの多くにとっては色々な意味でマインドを揺さぶられる出来事だったのです。
この"事件"は、現在フィッシュが幅広く色々なサーファーに楽しまれるようになった端緒であったことは間違いありません。
エムズとお付き合いいただいている皆さんは、現在シーンでフィッシュと呼ばれるものが"そのようなもの"が少なくないことをご存知ですが、そういうものが溢れかえるまでのような状況のきっかけにもなったわけですね。
リッチとトムの話に戻ると、その話の中でトムはリッチに、その板がターンが難しかったということを言ったそうです。
私たちには???な話ですが、つまりあの素晴らしいサーフィンのどこにターンの難しさが隠れているのかは見えません。
もちろん、その"難しい"はトムにとってはおそらく技術的なことではなくて、板の持つサーフデザインにどう調和する操作や動きに整えるかといった例えば波乗りの表現性のような、まあ私たちから見ればトムの芸術のことなんだろうな、と。
だって、芸と術ですよ、なんたって。
つまりウイル&グレースという板は、その話から始まったトムのリクエストのようなものをリッチが姿にしたということが言えるのです。
で、それをまた再解釈して姿になった板が、トリビュート・フィッシュ、というわけです。