リンゼイ・ロードの本
2019.09.17

これはとんでもなく貴重な本です。
  初版は1946年、その後の再販本がありますが、この表紙は初期の版です。

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この本、ファンタスティック・アシッドのトリスタンが、少し前に短いワーキング・トリップで訪れたベンチュラのジェフ・ハルさんからプレゼントされたそうで、ものすごく興奮してこの写真を送ってくれました。

リンゼイ・ロードというアメリカの科学者が著した、船の設計理論についての本です。
私がこの本のことを聞いたのは、故ジョー・ボーゲスがシモンズを現代に蘇らせたストーリーの中です。

この本はリンゼイ・ロード(どこか大学の教授、と聞いた覚えがあるのですが定かではありません)がアメリカ海軍に依頼され軍事転用のため研究した内容を、後に本にまとめたものといった話だったと記憶します。

1940年代の後半には"シモンズ"を完成させていたボブ・シモンズが、そのデザインのヒントと根拠に密接する内容が書かれていて、シモンズ・ボードの完成に役立てたと言われます。
ロードは船だけでなく、そのプレーニング理論の研究の中で板状の構造物での研究もしていて、そのパートもこの本の中で触れられているようにも聞きました。

ジョー・ボーゲスがシモンズを蘇らせたきっかけ。
今から数えるとおよそ20年近く前、当時ジョーがシェイプルームを間借りして作業していたマイク・イートンの工房に、イートンさんの友人でボブ・シモンズのクルーとでも言える関係でもあったジョン・エルウェル氏が古いオリジナル・デュアルフィン・シモンズのレストアに持ち込んだことから始まりました。

ボートなどの大物プロジェクトに取りかかっていたイートンさんは、その仕事をジョーさんに振りました。
ジョーさんはそれを引き受けて時間をかけて(本業の合間ですから当然です)レストア作業を進めていきますが、その過程でシモンズボードがとても優れたデザインのサーフボードというだけでなく、まったく新しい驚くべきデザインへの発展の可能性を見いだしたわけです。

当然ながら、その過程では依頼主であるジョン・エルウェル氏からボブ・シモンズについてのたくさんの情報を聞き学んだのですね。
私がこの本のことを聞いたのはそういったプロセスについて聞かされた中でのことです。

そんないきさつからジョーさんはいくつかのスタディを作ります。その中には6'くらいの短いプロトタイプなどもあります。
その頃、とある人物がジョーさんのシモンズ・プロジェクトを聞きつけてコンタクトしてきたりします。
それに伴いジョーさんのプロジェクトが幾人かのシェイパー達にも伝わることとなり、現在のシモンズ・ムーブメントの種火が点くことになったわけです。

そしてジョーさんはオリジナルとそのデザインの根拠を完全に学び取り、オラオロ・シモンズにつながる現代のシモンズを完成させることになります。

ジョーさんの完成させたシモンズの完成度と独自性については、エムズのサイトやオラオロ・シムなどを通じて体験済みのみなさんも多いと思います。
本物のシモンズ、噂には聞いていても実際に本物に触れたことの無いサーファーにはぜひ体験していただきたい未知のサーフィンです。

ところで、開発当時に伝わった影響は思わぬところにも届いていて、ダニエル・トムソンもその一人。
しばらく前にプレーニング・ハルとして彼が注目されるきっかけになったのは、ある人物を通じてダニエルにもたらされたジョーさんのシモンズのデザインと、そのでも大きな役割を果たしたリンゼイ・ロードのこの本の中で解説されている理論です。
なんだかちょっと難しそうな、数式がシンボルとして描かれたロゴを見たことはありませんか?
あれ、ロードの本の中から引用されたものです。

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この本のタイトルにある、PLANING HULLS、のハル。ここではもちろん船底をさしますから、そのままサーフボード・デザインのハルを解説しているのではありません。
が、ここで解説されている理論はシモンズのみならず、ディスプレイスメント・ハルのサーフィン上のメカニズムに直結する豊富な資料なのです。
これが冒頭でトリスタンが興奮する理由です。

もちろん、リアルにディープにハルを追求するシェイパー達の間では、この本の存在が語られてはいますが、実際にそのものを手にして学ぶチャンスはそうはありません。
ハルシーンのおそるべきマッドネス、トリスタン、この本から得るであろう素材がデザインとシェイプに及ぼす今後にも期待です。