弘法はホントに筆を選ばなかったのだろうかというと、たぶん選ばなかった、と思う。
マスターの域を自分で知らない私がなんでそう思うかと言うと、リッチ・パベルの仕業を見ているから。
ちょいちょいサーフィンとサーフボード周辺の地味〜な話をわざわざしてるのは、もちろん"自前の情報を自前のサイトで!"だからなんですが、こういうことを話すのは伝わる人達にはきっと伝わると思うからです。
自前の情報にこだわるのも、エムズのような存在のサイトがネットの世界に籍を置いてる私なりの礼儀だし、なんたってマインドの健康をキープしなくちゃならん、と。
さてこの "TOOL"の話、最初から道具と言えばいいんだが洋物だからっていうだけ。
リッチはいつもこちらに来てからいろいろな道具を入手します。先日も話したように彼の地元で手に入るなものでも、わざわざこちらのお付き合い先から手に入れることにこだわります。
そんな中、今年彼が手に入れたかった英国製のブロックプレーンと、リーニールセンのジャックプレーンがあります。
英国製の方はもともと歴史のあるメーカーが造っていたものですが、そのブランドが流行りの身売りしちゃって、そこの職人さん達が新しく起こしたブランドで旧来の魂の入ったものを再度作り始めたというものなんです。
ですからリッチにとっても、いよいよ手に入るようになったばかりってんで、ウチから通販で英国にオーダーして届いたお道具。
そのブロックプレーンはとても重くて、上手い人が使えばいかにも勢いを活かしたカットでカービングという、サーフィンなカンナ。
で、今日の話はもう一方のリーニールセン #62 ジャックプレーンのこと。
リーニールセンはアメリカ・カナダじゃ木工師のマスト、鉄板の信頼ブランド。日本では東京のミライ・コーポレーションさんが頑張って扱ってくださっているので、リッチはわざわざ私と東京に出かけていろいろな情報交換しながら何かを入手してくるのが決まり。
リッチは地元で入手できるこれらも、日本で使うものは日本のエージェントであるミライさんをリスペクト。
先日ミライさんにお邪魔した時にたまたま在庫があった #62を買った。
帰り道のクルマの中でリッチは、特に使う用があるんじゃないんだけど、とか言って、私もこんなデカいの要るのか?と思ったけど、まあなんだか迫力あるからいいじゃねーか、と。
ところがそれから1週間ほどしたある日、カスタムオーダーの1本にこの #62が出番だぞ、なんて興奮して言うわけです。
ここでリッチのやり口について少し、ほんの一部ですがお話しすると、彼は弘法の仲間だから道具は選ばないはずなので使えるものがあれば出来る、はず。
なんだが、美しい、っていうことと、道具とその使いこなしによるデザインというものがあります。
そこが彼、すごいんです。
つまり道具をどう使えばぜんぜん違うカタチが出来て、そのバラエティが数えきれないから、その結果ものすごく様々なサーフボード・デザインが生まれる。
お気づきの人も多いと思いますが、"PAVEL 山王"にはどんなサーファーの目から見ても、およそ一人のシェイパーが削ったとは思えないほど隅から隅まで姿の違う板がたくさんある。
違って見えるようにするためにデザインするんじゃなくて、デザインのアイデアとイメージがものすごく豊富だからなんですが、それがそれらを削る道具とその使いこなしとセットなんである、ということをお話ししたい。
それらがそれぞれ、美しくて波乗り最高なんです。
そのたくさんの姿があるっていうのは、SNSで写真見て回ってちょいと見た目が派手なの見つけて、特徴的に見える所をちょろっとマネて、私もこんなのできたから買ってね式でSNSに載っけ戻すのとは雲泥というか、もうこれは別な生き方。
ところで、その道具達を使いこなして生まれるサーフボードとそのディテールは、ただ美しくてカッコいいだけじゃない。
パートによってはね、ここをねこういうカッコにしておくと健次ならこう巻けるからあんなカタチになって超いいワケさ、リッチが私に説明することよくあります。
ちなみにこの #62、普通は電気カンナの出番の後によく使われるジャックプレーンや日本の現場ではシューフォームと呼ばれるマルチ歯のカンナでファインカットを進める場面で用いられましたが、どう見ても誰にでも扱える代物とは違うしものすごく重い。
デカくて重いこれは、単に効率よく削れるだけでなく、その重さと大きさからくる勢いが特に長いレールラインのフォイルを恐ろしく見事に整えるのに最高、なんだそうです。
実際、彼自身がシェイプする時に見ているモノとシャドウで説明するその板のいろいろな姿、#62の最初の対戦相手になったその板のすごいことったらないです。
複雑なラインが入り組んだ一目でダイナミックな派手さを見せる板も、派手さのないシンプルなフォイルの板も、すべてこの造られ方です。