続、inspired by Corky Carroll V-Bottom
2022.08.20

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さて、8月18日の続きです。

このモデルを説明する時に欠かさずお話しすることに、私たちがこのモデルを単にV-BOTTOMとしてだけでなく、あえてDisplacement V-BOTTOMと呼んでいる理由。
それはVEEボトムの持つ特長に加えて、アシッドならではのディープなベリーとレールフォイルをとても派手なコントラストで組み合わせてディスプレイスメント・ハルとしての血の濃い(実際の波乗り感触としても)サーフデザインとしたところ。

60年代終わりに現れたVボトム最大の特徴であるボトム後半のディープに左右に分けられたVEEパネルは、簡単に想像がつくようにターンでのテールのリーンが強烈に強調されて急角度のターンが起動されます。
当時そのターン性は明らかに急進的で、その少し前まではロングボードがサーフボードのほとんどという時代に、ポジティブでラディカルなターンをいきなり可能にしたわけだかから、そりゃみんな驚きます。

そのデザインはあっという間にオリジンを産んだオーストラリアからカリフォルニアまで広まりました。
それこそみんなが(どこのどんなメーカーやブランドも、と言っていいくらいに)V-BOTTOMモデルをラインナップしました。
それはそれほど長い期間続いたわけではなくて、なぜならトランジション・エラの典型的な状況でもあるように、一つのユニークなデザインはすぐ次に現れるデザインへと短期間でが目移りすることを繰り返したから。

そのトランジション・エラは結果として、ダウンレール+タックト・アンダーエッジと細身のテールを持つシングルフィンが主役として活躍する時代へと落ち着きました。
ちょうどロングボードからショートボード(とは言っても色々な長さがあったわけだけれど)へとサーフシーンがシフトして、冬のノースをを頂点とするようなより大きな波へとシーンのフォーカスが移ったことともサーフボードのデザイン的符合があったわけです。

ちょいと話がそれましたが、つまりそういった時代背景が出現時のV-BOTTOMの寿命を短くしたのです。

ところでアシッドのV-BOTTOMを紹介するときにはいつも出てくる話ですが、そのオリジンの時代から最近までこのコンセプトを試したりちゃんとラインナップするシェイパー・メーカーはごくわずかを除いてほとんど無くて、アシッドのV-BOTTOMは単に復刻させたのではなくディスプレイスメント・ハルとの高純度な融合を果たして完成させたという点でもチャンピオンです。

そもそもこのコンセプトはどデカい波では評判が良くありませんでした。なぜならそのボトムのディープなVEEパネルのテールはパワフルでデカい波のボトムターンでは、いかにハイトの大きいフィンをセットしたとしても簡単にスピンアウトしてしまうのです。
そこで上で書いた時代背景を見てみると世界的な目線はノースショアのデカい波に向いていますから、そういう波での適応性がそのままマーケットでのサーフボード・デザインの成否を左右したのです。
いやね、ホントにそういう時代だったんですよ。シーンのピラミッド頂点近くのごくわずかの様相を見て、そこで使われる板を真似たものがいとも簡単にマーケットを埋め尽くす。

今じゃほれ、オルタナティブっていうありがたい?お言葉によって、サーフィン本来の個人的な体験を反映して色々なデザインのサーフボードを選ぶことが当たり前に"なりつつある"けれど、このおかしなトレンド指向はそれ以降随分長くサーフボード業界のメソッドになったんですからね。

また話がそれました。
そういうわけで、ここで"どデカい波"、あるいは"デカい波"、を考えてみましょう。日本にもそのような本当に大きい波にチャージするサーファーたちがいます、私たちのクルーの中にもいて私は彼らを尊敬しています。そういう波に乗ることは特別なことだからです。

一方、それは全てのサーファーのゴールではないことも自然で当然です。
Vボトム・コンセプトというデカい波ではお呼びじゃないデザインは、だから私たちの元に戻ってきて当たり前なのです。

もうひとつ、ここで言う"デカい波"はかなり大きい波のことです。私たち日本のサーファーにとっては、特にそう。
ですから日常的な波乗りライフの中での結構大きい波は、ここで言う"デカい波"ではありませんので、すでにVボトムがお呼びじゃない波なんて実際にはほとんどありません。

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ここでやっと話を今回のトリスタンのアイデアに戻します。
彼は世界中の色々なところでサーフボード作りとサーフィンを重ねたキャリアの持ち主ですが、まず彼の地元の波を見てみます。
彼のホーム、ビアリッツはとその周辺エリアは羨ましいくらいの波の宝庫でしてね、小さい波にも理想的なシェイプのピーラーからメローなロングライド、また私たちにとっては台風の波に相当するようなサイズのパフォーマンス・ウェイブも一年を通じて豊富で、そしてよくサンセットと比較されるとまで言われるパーレメンティアのようなビッグ・ウェイブまで。
おそらくいつもトリスタンの話を聞いていて、波乗りできない日なんて無いんじゃないかと思うほどです。

そんな環境の中で彼が"大きい波"(つまり私たちのとっては、とても大きい波)に寄せたV-BOTTOMのためのデザイン・アイデアが、今回のセンターに持たせたフラットパネルというわけです。

トリスタン曰く、大きい波でのV-BOTTOMのドロップではそのスピードと波のパワーとの関係で板の左右方向の特別な敏感さはそのまま不安定感になる。
ドロップにおいても意識してレール(もちろんフィンとセットで)を波に食わせることが必要になり、つまりそれは例えばストレートにボトムに向かうラインではなくドロップそのものがターンのラインを選択しなくてはいけない、と。

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それを解決するのがこのセンターパネル。フィンと垂直方向のパネルはドロップを安定させ、なおかつボトムターンでのスピンアウトを防ぐ。
またボード後半のアウトラインはテールに向かってやや絞り込まれることで、それをさらにサポートするわけ。

で、こっちのV-BOTTOMデザインを私たちの環境に当てはめるとどうなるのか、と言うと。
V-BOTTOMの笑っちゃうくらいハッピーなターンとペネトレーションのコンボを楽しみたいならオリジナルを、少し控えめなVBターンともっと安定性をあればパネルVを、という選択ができるようになるのかな、と。

トリスタンからのライディング・リポート待ちの現時点で、そんなことを予想してみています。

次はきっと彼からの波乗り報告と合わせてさらに詳しい話ができるんじゃないかと思いますので、続く。

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