さらに、Dismetric Hull
2025.06.30

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しばらく前に紹介しましたこの板、アシッドのディスメトリック・ハル ここ日本ではなんと今回が1本目、初登場のモデルです。
友人のオーダー主の厚意で、あと2週間ほどショップに預けておいてくれることになったので皆さんにも見ていただきたいと思い、もうちょい紹介を兼ねてお知らせです。

ですからその2週間の間に、ぜひショップに足を運んで見ていただけると嬉しいです。

この板、Asymmetry つまり非対称デザインです。
いつものように、これが一番あれが二番みたいな話じゃないので、今これが一番注目!、的なことじゃありません。
波・サーファー・板、この三つは波乗りの3元素、波が気になると同じに板が気になるからね。

当たり前ですが非対称デザインは、そもそもどんな非対称なのかっていうところに、色々なアイデアとデザインがありますね。
どれがいいとかいうのは簡単に決めることじゃないのはもちろんそうなんだけど、何せ本来は良いデザイン・シェイプが対象に為されることでさえハードルが高いものを、わざわざ非対称にしようというのだからその出来の良し悪しは大きな差があろうことは簡単に想像がつきます。

非対称デザインの歴史は意外と古くて、ごくわずかですが60年代にはすでにかなり完成度の高いものが登場します。が、その発想がサーフィンにおけるフロントサイドとバックサイドの主に操作条件の差異をあらかじめ補うという、とても機能的な根拠による発想だったのですが、そのコンセプトのデザイン追求は実際のところ途絶えていました。

これ、なんでかと考えてみると、つまりヒトは対象が好きなんじゃないの、大雑把すぎるけど。ヒトそのものが非対称であるにも関わらず。
家みたいに対象に作ることは贅沢が過ぎるものもあるけれど、クルマなんかでも右か左かを走らなきゃいけないのにガワはおおよそ対照デザインだし。さすがにハンドルはどっちかにしなきゃいけないからそれは別としても。

波乗りは結構違う事情があって、そもそもが横向きに板に乗り、しかもフロントとバックはまるで違う身体の使い方とコントロールをしなければいけません。
そう考えるとボードを機能的な非対称デザインにすることは、理にかなったアイデアの一つです。

ただね、ここで昔から思い当たるのはですね、フロントとバックではどっちにしても違うことをするのが波乗りなんであって、非対称のデザイン性の利点を借りなくてもサーファーがやるよという志向なんですね。
ですからサーフボードにおける非対称デザインは確かに差異を機能的に補うという要素は基本であるとはいえ、それはむしろその存在の建前っていうのが実際で、むしろ非対称デザインをどのようなサーフデザインで感触も含めてどんなふうに面白いものに仕立てるかというところが波乗り的本質ではないかと思っています。
ここ、単に私の持論ですのでよろしくお願いします。

近年、そうですね、ここ7・8年ばかり主に短い板で見かける非対称デザインは割りとハイレベルなサーファーをフォーカスの中心に据えた情勢で、もちろんそれでも一部はアベレージ・サーファーにも有効なデザインとしてサイズレンジも拡大しながら発信と提供が広がってきています。(とはいえ、小さな小さな、ムーブメントともいえないほどの規模です)

それらを見わたしてみると、例えばその板の基本デザインがツインフィンとしたらフロントサイドにツインフィンの片方を、そしてバックサイドにクアッドの片側2本といったように、多くはバックサイドの回転性(回転弧の小ささをコントロールしやすい)をより高めるというイメージ。
そしてテールデザインをその発想にフィットさせて非対称化する、といったところが多く見られる。

また、アウトラインそのものをずらす、というアイデアも見かけます。その時のボトムデザインにはそれぞれの作者たちの発想によってデザインの選択肢はいろいろ。

そしてそれらの様々なアイデアとデザインを色々に組み合わせたデザインが混在します。
そのように、非対称というワードで括りつつも指向性にも嗜好性にもホント複雑なんです。

このシーンの説明にちょいとスペースを使いましたが、そしてここから今日の主役、ディスメトリック・ハルの話。

いつもの繰り返しになりますが、ファンタスティック・アシッドを主宰するトリスタン・モースは異能・多能の持ち主で、しかも彼自身が傾倒するとても多くの対象に対して並外れたエネルギーと吸収力と常に向上する才能にいつも驚かされています。
それが器用貧乏みたいなことと真逆でものすごい質の高さと厚みを持っていて、しかも見ているだけで周りをハッピーにするグルーヴを生んでます。

私、いつもアシッドの板を説明するのにあたって、ハルでこその最大の濃い感触に触れますが、彼の板の高評価には当然ながらそれは機能的な水準の高さはもちろんのこと、しかしそれはすでにスタートラインなのであってさらにその感触を与えることに全く遠慮も妥協も無い。

ここは見逃しちゃいけない、フレンチの、それも彼の拠点であるフレンチ・バスクの地が人に与え持つ精神性と密接であることは、日本の私たちにはとても親和性が高い。

そんなふうにアシッドの板たちはどれをとっても濃くてハッピーで速くて、ウキウキゾクゾクさせられるんだけど、この板もそう。

非対称であるからにはの発想と、デザインの機能性スタディには説得力があり、そして彼の話を聞いてデザインを知ってさらに実際に板を見てそれらを理解すると、今度はその機能性の上に乗っけてある感触をイメージできます。

まずは、いいですか、これはハルなんです。基本的にシングルフィンの。
しかしもちろん、ハルを平面で見てカタチを非対称に切り出すなんていうお粗末ではない。
だから彼はたぶん非対称をやってみようスタートではなく、いつものように様々なデザイン要素のハル拡張イメージの中のひとつから、あ、これは非対称デザインが有効なんじゃないのかという順番で着いたアイデアなんだろうと思うんです(今度聞いてみますね)。

基本的にこのモデルが持つハル性は波乗りの中の"行く"パートに強く持たされていて、ターンとレールのコントロールの楽しさのパートに非対称を生かしています。

この1本、オーダー主はレギュラーフッターです。
ここで、上でお話しした非対称デザインの中での多数派との違いにオヤっと思った人もいるでしょう。
シングルフィンに添えられたサイドバイトがフロントサイド側に持たされてるじゃないの、と。
ということはフロントサイドではむしろターンの多様性とダイナミクスが高められているワケ?、となるんだが、その通り。

つまり、この板は拡張するアイデアのどこかひとつですから、ピュアハルのシンプルなメニューからは飛び出たものの一つなんです。

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バックサイドはと見れば、テールがつまりラウンドピンの片側で、きゅっと絞ってカーブが多い。
フロントサイドのテールはソフトで小さめのラウンドスカッシュ、とでも言えるカタチでバックサイドと比べてやや大きめのカーブ。

ボードセンターは、つまりストリンガーラインはバックサイド側に3/16" / 約5ミリばかりオフセットされています。
当然ながらボトムのハルとコンケーブなどのコンツアーも準じていますが、面白いことに、というよりもそのくらいではパドルの違和感などは生じません。
加えてセンターフィンBOXもさらに3/8"程オフセットされています。これもトリスタンによると、ストレートパドルに何も違和感ないよ、と。

さらに言えば細かい非対称バランスは各部に及んでいるのですが、この板の特徴的なアイデアとデザイン追っていくと、レールフォイルにも目が行きます。
フロントサイド側には穏やかな丸みとボリュームのフォイル、比べてバックサイド側にはもっとボリュームを抑えてピークを小さくしたフォイル。

この板のサーフデザインは、"行く"のはモロにハル。
ターンはフロントサイドでポジティブでダイナミックに、バックサイドには必要以上の力を要さずに小さな動きでハルの"行き"とターンの間の領域コントロール(それはリフトのコントロールを楽にしてくれる)を。

センターフィンのオフセットだってそれらと協調していて、つまりバックサイドではフィンはよりフェイスの深部(ヒール側に近い)にあり、フロントサイドではややワイドなテールなデザインをサポートするサイドバイトという見事な辻褄。

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最初の話に戻るけれど、トリスタンにしてもリッチにしても、このように一つの板・モデルに仕込まれたサーフデザインがそれぞれ面白い映画や音楽やお話しのようで、それを波の上で感じながら楽しむんだから、それだから最高です。